025年6月15日初掲、6月26日〈Dream Chair〉プロダクト概要を追補
JR大阪駅北側の梅田貨物駅跡地を再開発してオープンしたGRAND GREEN OSAKA(グラングリーン大阪)の文化装置、VS.(ヴイエス)にて、建築家・安藤忠雄展覧会が7月21日まで開催されています。
「安藤忠雄展|青春」開催概要
大阪発・世界のANDOの展覧会「安藤忠雄展|青春」 グラングリーン大阪(GRAND GREEN OSAKA)で自身が設計した文化装置 VS.(ヴイエス)にて開催
本展は、8年ぶりの安藤忠雄氏の大規模展であり、大阪では16年ぶりの開催となります。
『TECTURE MAG』では会場を取材、会場写真を中心に、本展をレポートします。

VS.(ヴイエス)外観
本展は、安藤氏が率いる安藤忠雄建築研究所が設計した建物で行われています。地下空間での展示は、「挑戦の軌跡」と「安藤忠雄の現在」の2つのテーマに分かれています。

「挑戦の軌跡」展示風景

「挑戦の軌跡」展示風景
安藤氏がこれまでに手がけたプロジェクトの中から、未完の提案(プラン)を含め、約60の建築を紹介。カラフルな色彩で知られる安藤氏の手によるスケッチやドローイングと、大小さまざまな建築模型などあわせて230点の資料が展示されています。
本展では、会場の特性を生かして、没入型のインスタレーションが展開しているのも大きな見どころです。そのうちの1つ、地下から地上にまで突き抜けた15mの天井高を誇る展示室(STUDIO A)では、北海道札幌市郊外にある〈真駒内滝野霊園頭大仏〉や、”光の教会”こと〈茨木春日丘教会〉、フランス・パリの歴史的建造物の改修プロジェクト〈ブルス・ドゥ・コメルス(Bourse de Commerce)といった、実際に現地まで赴くことが難しい立地にある安藤建築の内外観をドローンも用いて撮影、巨大スクリーン3方向にて迫力の映像を展開しています。あたかもその場にいて見ているかのような体験型展示です。

没入型展示の1つ、〈真駒内滝野霊園頭大仏〉 の映像インスタレーション

“光の教会”こと〈茨木春日丘教会〉の映像インスタレーション映像より
本展示室では、このほか〈ブルス・ドゥ・コメルス〉のあわせて3作品映像が映し出される
没入感あふれる展示は、このほかにも、初期の代表作の1つである〈水の教会〉をインスタレーションで再現したもあり、十字架を前に会衆席に腰をおろしたときの景色を、映像と音で体験することができます。

〈水の教会〉インスタレーション
さらに、本展の大きな見どころは、安藤忠雄建築研究所が制作したプロジェクトの模型の多さ、その多彩さ、精緻なつくりこみです。建物だけでなく、一帯の自然やランドスケープを含めてつくり込まれており、模型のサイズに比する建物の小さなに驚かされることは会場にて何度も。建築家・安藤忠雄の思想を体現した模型作品といえます。

来場者を出迎える最初の展示は。大阪市北区にある安藤氏の拠点であり自作でもある〈安藤忠雄建築研究所〉の模型と、安藤氏を中心とした所員の集合写真

「渋谷プロジェクト」模型

“100年に一度”の渋谷駅街区計画の一環で、地上から地下に移設された〈東急東横線渋谷駅〉の模型

東京大学・赤門との位置関係がわかる〈情報学環・福武ホール〉の模型とドローイングほか

愛媛県西条市〈南岳山光明寺〉の展示

2001年11月に開館した〈司馬遼太郎記念館〉模型
緩やかな曲面のガラスウォールのアプローチからコンクリート打ちっ放しの建物へと入る記念館(左側)の模型だけでなく、隣接する作家の自邸の家屋や雑木林などもつくりこまれている。

米国における安藤氏の最初の建築作品である〈ピューリッツァー美術館〉ドローイングと模型など

南仏プロヴァンス地方のワイナリー〈シャトー・ラ・コスト〉の模型では、建物の周囲に広がるぶどう畑も再現されている

安藤氏が注目されるきっかけとなった初期の代表作、1976年竣工〈住吉の長屋〉の展示

〈住吉の長屋〉の展示

〈六甲の集合住宅〉模型

六甲山の麓の斜面地に集合住宅を建てるプロジェクトは、1983年の第I期に始まり、2009年のⅣ期まで続いた

〈風の教会〉模型

“光の教会”の名で知られる〈茨木春日丘教会〉の展示

〈茨木春日丘教会〉模型

〈茨木春日丘教会〉ドローイングほか

本展では安藤氏が2013年にデザインしたラウンジチェア(Dream Chair)も展示されている
安藤忠雄氏がはじめてデザインを手がけた家具として注目を集めたこの椅子は、3D成型された1枚のプライウッドシートからつくられている。彫刻的でミニマルなフォルムを追求した、ハンス J.ウェグナーへのオマージュと、自身のスタイルが融合したデザインとなっている。(カール・ハンセン&サン ウェブサイト〈TA001P|Dream Chair〉概要ページより)

〈水の教会〉インスタレーション会場の展示

「70の住宅模型」展示

住宅模型は安藤氏がこれまでに手がけた中から70作品を選んでつくられた(模型製作は修成建設専門学校で建築を学ぶ学生)

70の住宅模型が並んだ間仕切り壁には「窓」が開けられており、前室に置かれた司馬遼太郎記念館の模型の反対側(北面)などを確認できる。左奥の壁掛け展示は〈ロック・フィールド静岡ファクトリー〉模型

前述の〈司馬遼太郎記念館〉模型の北面 / 奥(フロア中央):東京大学〈情報学環・福武ホール〉模型

〈大阪府立近つ飛鳥博物館〉展示

2002年に開館した〈兵庫県立美術館〉の展示 2019年に安藤氏から寄贈された「青りんご」が「海のデッキ」に設置された模型など

ベネッセホールディングス(当時:福武書店)が1988年に立ち上げた「直島文化村構想」のもと、安藤氏に設計を依頼し、1992年にオープンした〈ベネッセハウス ミュージアム〉を皮切りに、今年5月に開館した〈直島新美術館〉までの歴史を振り返る展示

直島における建築群のうち、美術館〈ベネッセハウス ミュージアム〉と宿泊施設〈ベネッセハウス オーバル〉の模型。両館のあいだは宿泊者だけが利用できるケーブルカーで結ばれている

直島の一連のプロジェクトをインスタレーションで使える展示。左手前の船は、令和7年度に瀬戸内海にて就航予定のこども図書館船「ほんのもり号」模型

こども図書館船「ほんのもり号」模型内部

フランス・パリで宮殿として建設されたあと、南側の塔を残して解体され、穀物取引場となった歴史的建造物を、安藤氏が改修した〈ドブルス・ドゥ・コメルス〉模型

〈ドブルス・ドゥ・コメルス〉は、ピノー財団が誇る現代アートコレクションを展示する施設で、フランソワ・ピノー氏の依頼で改修を手がけた安藤氏により、19世紀初頭に冠されたガラスドームの下に現代のコンクリート造による新たな円形が挿入された(プロジェクトの様子は、2022年にNHK Eテレ『日曜美術館』で放送された「安藤忠雄 魂の建築」の回で紹介された)

ピノー財団とのイタリア・ヴェネチアのプロジェクト、〈プンタ・デラ・ドガーナ(Punta della Dogana)〉の改修では、コンクリート造の長方形を歴史的建造物に内包し、現代アートの展示施設として再生された

既存建物の中に現代の建築技法による新しい”器”を挿入したプロジェクトは、東急東横線渋谷駅を地下に移設したプロジェクトでも見られるが、1989年に発表された、一時期は取り壊しの危機に見舞われた丹下健三建築〈大阪市中央公会堂〉の再生プラン「中之島プロジェクトII アーバンエッグ」の新ホールの設計提案でも見られたもの

大阪・中之島における安藤氏の建築提案を伝える展示

台湾で進行中のプロジェクト「森の霊廟 水の納骨堂」

国内で進行中のプロジェクト「NIDEC 水森重信創業記念館」

ヴェネチアンガラスの老舗 VENINI社とのプロジェクト第三弾として製作されたアートピース

会場には、大阪市内での主な安藤建築の場所がわかるMAPも用意されている(写真はその一部)

本展会場〈VS.〉エントランス・カフェ側外観
VS.(ヴイエス)のエントランスには、関西にある安藤建築〈こども本の森 中之島〉や〈兵庫県立美術館〉でも見られる、直径2mほどの大きな「青りんご」のオブジェが設置されています。赤いりんごではなくなぜ「青」なのか? その意味は、オブジェの作品プレートに以下のとおり書き添えられています。
サミュエル・ウルマン[註]は「青春」の詩ので、青春とは人生のある期間ではない、心のありようなのだ、と謳いました。
失敗を恐れることなく困難な現実に立ち向かう挑戦心。
どんな逆境にあろうとも、夢をあきらめない心の逞しさ。身体・知性がいかに年を重ね、熱しようとも、この内なる若さを失わなければ、
人は老いることなく生きられるというのです。いつまでも輝きを失わない、永遠の青春へ一
目指すは甘く実った赤りんごではない、
楽熟で酸っぱくとも明日への希望に満ち溢れた青りんごの精神です。建築家 安藤忠雄
註.サミュエル・ウルマン(Samuel Ullman|1840-1924):米国の詩人・実業家・人道主義者。詩作に『Youth(日本語訳は青春)』がある

会期:2025年3月20日(木)より開催中、7月21日(月)まで
会場:VS.(ヴイエス)
所在地:大阪府大阪市北区大深町6-86 グラングリーン大阪 うめきた公園内 ノースパーク(Google Map)
休館日:月曜(祝日の場合は営業)
開館時間:10:00-18:00(金・土曜、祝日の前日は20:00まで / 入場は各日とも閉館の30分前まで)
入場料(税込):一般 1,800円、大学生 1,500円、高校生 1,000円 ※中学生以下無料
※学割、団体入場など各種割引あり(詳細はVS.公式ウェブサイトを参照)
チケット販売:VS.公式ウェブサイト、VS.チケット売場(会期中の開館日のみ販売) 、チケットぴあ、KANSAI MaaS
主催:VS.共同事業体(トータルメディア開発研究所・野村卓也事務所)
共催:安藤忠雄建築展実行委員会
後援:大阪府、大阪市、公益社団法人関西経済連合会、一般社団法人関西経済同友会、大阪商工会議所、公益財団法人大阪観光局、公益財団法人関西・大阪21世紀協会、独立行政法人都市再生機構西日本支社、公益社団法人大阪府建築士会、FM COCOLO
※協賛・協力の各社はVS.ウェブサイトの本展概要ページを参照
展覧会詳細
https://vsvs.jp/exhibitions/tadao-ando-youth
VS.Website
https://vsvs.jp
Photo: TEAM TECTURE MAG (Jun Kato & Naoko Endo)
※本稿の会場風景写真は、主催者の許諾のもと撮影(無断転載・複製・改変を禁ず) ©︎ 安藤忠雄展|青春 2025