第1回「ひろしま国際建築祭」が福山と尾道の市内各所に開催中です(主催:神原・ツネイシ文化財団[*後述])。会期は11月30日まで(尾道の1会場は11月3日で終了)。
開催概要(ガイドツアー併催)
「ひろしま国際建築祭2025」10/4〜11/30開催! 丹下健三の自邸の再現展示やプリツカー建築賞受賞建築家8組による展覧会など、福山・尾道を中心に8つのプログラムを展開
『TECTURE MAG』では、関連企画展とオープニング・プレミアトークを取材しました。前後編で本イベントをレポートします(本稿の特記なき画像はすべて『TEAM TECTURE MAG』撮影)。前編は福山編、後編は尾道編です。
まずは、JR福山駅前に設置された石上純也設計のインフォメーションカウンター(移動型キオスク)から見ていきましょう。
前編・福山編
・石上純也設計”移動型キオスク”〈雲が降りる〉 ▷▷▷ 読む
・ふくやま美術館「後山山荘(旧・藹然荘)の100年とその次へ|福山が生んだ建築家・藤井厚二」▷▷▷ 読む
・藤森照信建築など見どころ満載の神勝寺 禅と庭のミュージアム ▷▷▷ 読む
・堀部安嗣設計”移動型キオスク”〈つぼや〉 ▷▷▷ 読む
・丹下健三の自邸再現プロジェクト進行中、予告展にて縮尺1/3模型を展示 ▷▷▷ 読む
・『NEXT ARCHITECTURE|「建築」でつなぐ新しい未来』 ▷▷▷ 読む
後編・尾道編(2025年11月16日掲載)
・青木 淳+品川雅俊/AS設計〈千光寺頂上展望台PEAK〉▷▷▷ 読む
・尾道市立美術館「ナイン・ヴィジョンズ|日本から世界へ 跳躍する9人の建築家」展 ▷▷▷ 読む
・スタジオ・ムンバイが手がけた〈LOG〉にて”「建築の声」を聞く” ▷▷▷ 読む
・スキーマ建築計画〈LLOVE HOUSE ONOMICHI〉の後期展示は11月22日から ▷▷▷ 読む
・SUPPOSE DESIGN OFFICEが海運倉庫を改修した複合商業施設〈ONOMICHI U2〉 ▷▷▷ 読む
・「『ZINE』から見る日本建築のNow and Then」展 ▷▷▷ 読む
・中山英之設計”移動型キオスク”〈風景が通り抜けるキオスク(Catch)〉 ▷▷▷ 読む
・高野ユリカ写真展「うつすからだと、うつしの建築」 ※11月3日終了 ▷▷▷ 読む
「ひろしま国際建築祭2025」会場レポート後編:尾道 / プリツカー建築賞受賞建築家による「ナイン・ヴィジョンズ」展、中山英之設計キオスク、スキーマ建築計画「半建築展」など、尾道エリアの見どころ
・「ひろしま国際建築祭2025」開催概要 ▷▷▷ 読む

石上純也×常石造船×ツネイシカムテックス〈雲がおりる〉 Photo: Yoshikuni Shirai
出展建築家:石上純也(石上純也建築設計事務所)
協賛:常石造船、ツネイシカムテックス
場所:JR福山駅前
用途:インフォメーションカウンター
作品概要:「常石造船の工場を見学させてもらった時に、鋼板を3次元に曲げながら溶接をして巨大な船を組み立てていく、その迫力に圧倒された。まるで建築のようなスケールのものが海に浮かび、そして、動く。工場で建造している風景も建築現場を想起させる。この小さなキオスクは、船を作るように鋼板を3次元に曲げ、溶接してつくっていく。ちょうど船を横に傾けたような状態で設置し、おきあがりこぼし(起き上がり小法師)の原理で、足元を重くすることで成り立たせている。倒れるか倒れないかギリギリの感覚で地面に設置している風景は、まるで雲が優しく陸を触るかのような感覚を想起させる。」(建築祭公式ウェブサイト 作品ページ「石上氏コメント」より)

Photo: Yoshikuni Shirai
10月5日に市内で開催されたオープニング・プレミアトークに登壇した石上氏は、本作について次のように説明しています。
「常石造船の工場を見学した際、瀬戸内海の美しさに感動した。穏やかな海に点在する島々、その島々が反転したように空に浮かぶ白い雲。その雲の1つが地上にふわりと降りてくる、そんなイメージ。そして、1度きりで壊すのではなく、建築祭が開催される3年ごとにまたあらわれる。そんな儚さとともに、仮設とはいえ、ずっとそこにあり続けてもおかしくない、石のような強さをもった建築にしたかった。溶接した鉄板の上半分は薄く、下半分には厚みをもたせている。重心が下あるため、約2.3トンのキオスクは3点だけで自立し、強風が吹いても倒れない。
僕は常々、建築を設計するとき、1つのものとしてでなく、周囲の環境につながるようなものにしたいと考えている。空間の隔たりなく、周辺まで広がっていく。今回もそんな建築になっている。」(石上氏談)

設営の様子 Photo: Yoshikuni Shirai
海外の工場で製作された石上キオスクは、台風の影響を受けて到着が遅れ、10月9日の深夜に駅前に設置された(画像提供:主催者)

Photo: Yoshikuni Shirai

Photo: Yoshikuni Shirai

Photo: Yoshikuni Shirai
JR福山駅北口から徒歩で数分のふくやま美術館では、1階ギャラリーにて、福山出身の建築家・藤井厚二(1888-1938)に焦点をあてるとともに、藤井が兄のためにサンルームを増築したと言われる、鞆の浦の高台に現存する後山山荘(改修・設計/前田圭介)(旧・藹然荘(あいぜんそう))のプロジェクトについて伝える展示が行われています。
フロアの中央の模型は、現在の姿ではなく、改修前の廃屋状態を再現したもので、珍しい展示手法といえます。

後山山荘(旧・藹然荘) の模型(S=1:10)のまわりを、藤井兄弟のプロフィールや数年におよんだ再生プロジェクトについて伝えるパネルが絵巻物のように囲む(パネルの画:宮沢 洋)
出展建築家:前田圭介、藤井厚二
企画監修・会場構成:前田圭介(UID)
特別協力:谷藤史彦、藤井英博、松隈 章、後山山荘倶楽部、竹中工務店、聴竹居倶楽部、宮沢 洋(BUNGA NET)

“鞆別荘”とも呼ばれていた旧藹然荘 改修前の状態を再現した展示 模型製作:諏佐遥也(ZOUZUO MODEL)

模型製作:諏佐遥也(ZOUZUO MODEL)
旧・藹然荘を現在のオーナーが入手するまで、建物は屋根に穴が空くなど荒れ果てた状態でした。オーナーら人々の尽力のもと、福山市出身で同市を拠点とする建築家の前田圭介が改修設計を担当し、2013年に「後山山荘(うしろやまさんそう)」として再生、オープン。現在では多目的に活用され、見学の機会も設けられています(詳細は 後山山荘 公式ウェブサイト を参照)。

藤井浩二が京都・山崎に自邸として設計した実験住宅・聴竹居のサンルームの写しともいえる増築部分も再生されている(手前の写真:2009年12月頃の撮影)

展示什器には、現地で採取された屋根瓦や陶器の欠片が埋め込まれている

模型展⽰台や絵巻風パネル、パーテーションはダンボール製(協力:タカムラ産業 / 詳細はこちら)
神勝寺は、JR福山駅から鞆鉄バスで30分+徒歩移動となるため、時間にゆとりをもって鑑賞したいポイントです。

神勝寺 総門
総門を前にした背後に、名和晃平建築を見上げで視認できる
天心山神勝寺(しんしょうじ)は、常石造船創業者一族の神原秀夫氏(1916-1977)が海難事故の供養のために1965年に建立した、臨済宗建仁寺派の特例地寺院です。臨済宗の中興の祖・白隠慧鶴(1686-1769)のコレクションを公開するために「神勝寺 禅と庭のミュージアム」が2016年にオープン。名和晃平率いるSANDWICHの設計によるアートパビリオン《洸庭(こうてい)/ KOHTEI》も山門の向かいの高台に2016年に竣工しています。
山門をくぐった左側には、藤森照信が設計した寺務所(兼ミュージアムショップ)が置かれ、「ひろしま国際建築祭2025」の公式グッズなどが販売されています。

寺務所 松堂(建物の詳細はこちら)

藤森照信建築・松堂

寺務所・松堂では、土産物や「ひろしま国際建築祭2025」公式グッズを販売
寺務所には、約7万坪を誇る神勝寺 禅と庭のミュージアムの全体模型が置かれています。敷地は起伏に富み、最深部の高台にある無明院までのおおよその距離感をここで確認できます。

左:神勝寺 禅と庭のミュージアム 全体模型の一部 / 右:メディアツアー参加者とともに歩く建築家の川島範久氏

本堂・無明院・荘厳堂の手前、石段(160段)からの境内見下ろし
「ひろしま国際建築祭2025」における移動型キオスクー小さな建築プロジェクトは、地元企業の協賛を得て、合わせて3つつくられており、こちらの「無明の庭」には建築家の堀部安嗣氏が設計した〈つぼや〉が設置されています。

移動型キオスク〈つぼや〉(設計:堀部安嗣建築設計事務所)

移動型キオスク 〈つぼや〉正面外観
出展建築家:堀部安嗣(堀部安嗣建築設計事務所)
協賛:ウッドワン
施工:羽根建築工房
場所:神勝寺 禅と庭のミュージアム(無明院・無明の庭)
用途:抹茶ドリンク販売カウンター
作品概要:アーキテクチャー(Architecture)とは、物理的なものではなく、茶道、柔道、武⼠道のような「〜道」ではないかと考えます。未来のための、過去から続く⼀本の道。その”道”の途中に存在する今回のプロジェクトでは、⽇本で今まさに失われつつある価値ある⾝近な素材や伝統的な⼿刻みの⼤⼯技術を継承してゆくために何ができるか、考えるよい機会にしたいです。
尺貫法の6尺(1,820ミリ)×6尺(1,820ミリ)は1坪です。これが⼈の住まいや⼟地の基本となっています。この1坪という単位を〈つぼや〉でお楽しみください。(建築祭公式ウェブサイト 作品ページ「堀部氏コメント」より)

移動型キオスク 〈つぼや〉側面

移動型キオスク 〈つぼや〉側面下部

〈つぼや〉では抹茶ドリンクを販売(電子マネー可)

この日の気温は25度以上の夏日となり、160段を上り切った身には冷抹茶が沁みた

〈つぼや〉が置かれた無明の庭 遠景
なお、紅葉の季節を迎えた境内では、夜間ライトアップが土曜・日曜の限定で行われています(18:00-21:00[最終受付20:30]、鑑賞パスポートに加えて夜間特別拝観料が必要、詳細はこちら)。
本イベントを主催する神原・ツネイシ文化財団では、広島とは縁の深い建築家の丹下健三(1913-2005)が都内に建てた自邸で、1970年代に取り壊されている〈成城の家〉を再現し、瀬戸内海が見下ろせる福山市内の高台に建設する予定です。無明院・明々軒の会場では、この再建プロジェクトの「予告編」となる展示が行われています

無明院・明々軒での展示は、階段下で靴を脱いでから入場する
出展建築家:丹下健三
特別協力:内田道子、溝口至亮(GALLERY-SIGN)
協力:おだわら名工舎

場内は畳敷きで、段差に腰掛けて縮尺1/3模型を眺めることができる

この模型は、東京・森美術館にて2018年に開催された企画展「建築の日本展」のために制作・展示されたもの(詳細は森美術館 公式ウェブサイト「建築の日本展」プロジェクト紹介ページを参照)

奥の展示室では、この家で催された誕生日パーティなど当時の様子を、丹下家のアルバムから提供された貴重なモノクロ写真で確認することができる

10月5日のオープニング・プレミアトークに登壇した建築家の伊東豊雄氏は、東京大学工学部に入学した1961年当時を振り返り、建築学科の助教授を1946年より務め日本を代表するスター建築家でもあった丹下健三氏の自邸(1953年竣工)がどうしても見たくて、垣根越しにこっそりと見たこと(注.読者は真似してはいけません)、さらに、1950年代に瀬戸内周辺にいくつも建てられた丹下建築を見て回ったことを回想。ル・コルビュジエの影響がみてとれる〈成城の家〉について、伊東氏は「京都の桂離宮の影響が色濃い」との分析を示した

本プロジェクトでは建物のほかに、自邸のために丹下建三がデザインした家具も一部が復刻される。和室の会場では、丹下邸で執り行われた磯崎新夫妻の結婚式風景を含めた当時の様子を伝える貴重な写真のほか、丹下家愛用の品々、そしてこの家で育った長女の内田道子氏へのインタビューも上映されている
無明院・本堂下の特設会場では、現代および次世代を担う5組の建築家による展覧会『NEXT ARCHITECTURE|「建築」でつなぐ新しい未来』が開催されています。
出展建築家:藤本壮介、石上純也、川島範久、VUILD / 秋吉浩気、Clouds Architecture Office
場所:無明院下 特設会場

各展示:
藤本壮介「海島と未来都市 ——海とつながる建築」▷▷▷ 読む
石上純也「自由と広がり——風景とつながる建築」▷▷▷ 読む
川島範久「循環のかなめ——自然とつながる建築」▷▷▷ 読む
VUILD / 秋吉浩気「共につくる——市民とつながる建築」▷▷▷ 読む
Clouds Architecture Office「極限環境での創造性と技術の融合——宇宙とつながる建築」▷▷▷ 読む
京都大学トーマス・ダニエル研究室による「NIPPONアーバニズムプロジェクト クロニクル」 ▷▷▷ 読む

展示会場の本堂(ふだんは駐車スペースとして使用されているピロティ部分)

『NEXT ARCHITECTURE|「建築」でつなぐ新しい未来』展示風景
主な展示:共鳴都市2025、海島プロジェクト

藤本壮介は、先ごろ森美術館で閉幕した展覧会「藤本壮介の建築:原初・未来・森」でも見られた提案展示「共鳴都市 2025」と、瀬戸内エリアで進行中の「海島プロジェクト」に関する展示

「海島プロジェクト」は、瀬戸内海に浮かぶ”動く島”を構想し、船上に地形や緑を設け、海と島々を結ぶ新たな生活と交流の回路を開くというもの
戦後に都市の新陳代謝を提唱したメタボリズム運動の精神を、現代的技術と視点で再解釈する試みともいえる。菊竹清訓の「海上都市」は人工地盤ユニットを接続し有機的に都市を生成、丹下健三の〈東京計画 1960〉は東京湾上に都市軸を延伸する構想。藤本は彼らの思想とも共鳴し、動的かつ流動的で開かれた未来都市像を提示している。(藤本壮介)
※会場展示パネルのテキストより抜粋
主な展示:Water Garden(2018)、House & Restaurant(2022)、水の美術館(2023)

石上純也 展示エリア

House & Restaurant(2022)模型と施工風景の大盤写真
自由な建築
建築家の役割は、その時代の人間の意識と同調する環境を生み出すことだ。
20世紀は都市の時代であった。都市はみんなの意識のベースにあった。都市のスケールで生活をし、都市の中で文化が生まれ、文明が育まれた。建築家は、都市における建築を考え、都市そのものを建築として捉え、また、建築を都市として提案しようとした。
では現代はどうだろうか。僕たちの意識の広がりは、もうすでに、都市というスケールでは小さすぎて捉えられない。都市を超えた世界、これを意識のベースにしているように思うのである。例えば、日常の買い物においても「それが地球環境にとって良いのか悪いのか」を思索し、また日々のコミュニケーションにおいても、地球の反対側にいる人びとを自然と思い描きながら交流している。僕たちの意識は、都市に収まることなく、すでに地球全体の規模にまで及んでいる。
そう考えると、現代の建築家の役割は、この地球規模へと広がった意識と連続する環境をつくりだすことにあるだろう。自然と人工、都市の内と外、異なる文化や価値観をもつ人間どうし、さらに人間とそのほかの生態系一それらを等価に俯瞰し、境界を外し、新しく結びつけていく環境を生み出すこと。つまりそれは、建築を自由にしていくことなのだと、僕は考えている。そして、そのような建築を目指している。
その意味において、この国際建築祭が大都市である東京などではなく、瀬戸内という場で開催されることの意義は大きなものである。(石上純也)※会場展示パネルのテキスト全文

『NEXT ARCHITECTURE|「建築」でつなぐ新しい未来』展示風景
主な展示:〈ストックヤード / 遊び場〉、〈苗木ナーサリー / コンポストベンチ〉
設計:川島範久+川島範久建築設計事務所
協力:広島工業大学杉田宗研究室(屋根パネル / デジタルデザイン・ファブリケーション)、近畿大学藤田慎之輔研究室(構造解析)、堤有希(テキスタイル)
木材:吉野銘木製造販売
木材加工・建方:トリスミ集成材
協賛:淺沼組(同社 2025年10月28日プレスリリース)

川島範久が「ストックヤード / 遊び場」と名付けた、モンゴルのパオに似たパビリオン
川島氏は、本会場での展示のほか、屋外の別の場所(休憩処・秀路軒の前)にも〈苗木ナーサリー / コンポストベンチ〉を設置しており、2つあわせての訴求となっています。「NEXT ARCHITECTURE展」は無明院下のスペース下での展開ですが、神勝寺内の資源循環をつくるため、日が当たり雨も降る場所に〈苗木ナーサリー / コンポストベンチ〉を川島氏が提案し、建設されたとのこと。

“循環のかなめとなる建築” 離れた場所にある2作品の関係性などを示したパネル

休憩処・秀路軒の前に設置された〈苗木ナーサリー / コンポストベンチ〉

「45㎜角材のみで構成された〈苗木ナーサリー / コンポストベンチ〉は組み立て・解体が容易な建築」(川島氏談)
神勝寺の庭や地域における循環をかたちづくる、2つの建築をつくりました。
庭、あるいはその環境が維持される過程で発生される落ち葉や伐採木、雑草などを、外に廃棄するのではなく、その場で楽しみ、資源として還す仕組みとしての、循環の「かなめ」となる建築です。神勝寺はお庭が日々のメンテナンスによって綺麗に保たれていますが、それらが裏のヤードに運ばれ、廃棄されています。それをあえて表に持ってきて、資源循環のかなめにしていくというアイデアです。(1) ストックヤード/遊び場
庭から得られる落ち葉や伐採木を分類・保管するストック小屋としての機能を持ちます。学生たちと一緒に庭で集めた素材を、外周の棚に分別して並べることで、これをどのように活用できるかを考えるきっかけになります。ロート状の屋根には天井の開口部から落ち葉が投げ込まれ、中央には落ち葉の小山ができ、子供たちはここで遊びます。その過程で落ち葉は足元で柔らかく踏みしめられ、分解が早まります。構法は釘を使わない貫工法とし、解体や移設が容易です。会期後は移築を予定しています。(2) 苗木ナーサリー/コンポストベンチ
庭に、ベンチとコンポストを兼ねた場を設置します。ストックヤードで踏みしめられた落ち葉や雑草に、籾殻燻炭や竹炭、藁を重ね、モミジの苗木を育てる基盤としました。ここで育った苗木や堆肥は庭に還元され、展示が終了したのちも苗木は神勝寺の敷地内に植えられ、やがて庭の一部として成長していきます。このような循環は、里山や自然に近い場所でしか成立しにくいと一般的には思われていますが、僕は、都市の中でも展開可能だと考えています。里山での〈築土庵〉や、都市での〈GOOD CYCLE BUILDING 001|淺沼組名古屋支店改修プロジェクト〉といったプロジェクトで培ってきた経験が、今回の神勝寺での取り組みにも生かされています。(川島氏寄稿)
淺沼組名古屋支店 リニューアルプロジェクト 詳細
https://mag.tecture.jp/feature/20210930-goodcycle-pj/

部材同士が支え合うレシプロカル構造で組み上がっている〈苗木ナーサリー / コンポストベンチ〉の模型

〈ストックヤード/遊び場〉の屋根は、ワークショップを開催し、広島の大学生と、明治大学川島範久研究室、川島範久建築設計事務所+堤有希・斎藤弥生により、セルフビルドで施工。天井は、白い部分がリサイクルポリエステル、青い部分は廃布(はいぬの)を用いた仕上げ。落下する枯葉が中央部に”山”を形成
「〈ストックヤード/遊び場〉の中央の山は、丹下健三自邸・成城の家(1953年)の築山、ロート状の屋根は、丹下健三による広島子供の家(1953年)へのオマージュでもあります。」(川島氏談)
主な展示:まれびとの家、小豆島 the GATE LOUNGE、福島ユナイテッドFCサッカースタジアム構想

VUILD / 秋吉浩気「共につくる——市民とつながる建築」展示風景

〈まれびとの家〉は2020年グッドデザインで金賞(グランプリ決選投票では次点)を獲得(詳細はこちら)
全体模型が披露されている福島ユナイテッドFCサッカースタジアム構想は、今年8月に発表された最新プロジェクトです。地元を含めたサッカーファンはもちろんのこと、3D木材加工機・ShopBot(ショップボット)を用いたデジタルファブリケーションによる、地元材を使う設計・施工のプランは、建築関係者のあいだでも大きな話題となりました。

福島ユナイテッドFC ホームスタジアム構想の模型とイメージパネル

スタジアムは大きく4つの区画に分かれ、それぞれで木造認定を受ける計画(構造・環境設計をArupが担当)
注.会場内の展示模型は接触禁止(写っている手は、来場者に解説中のVUILD秋吉氏のもの)
福山ユナイテッドFC「循環型木造スタジアム構想」詳細(2025年8月)
デジタルファブリケーションを駆使した福島県材でのサッカースタジアム構想を福島ユナイテッドFCを運営するスポーツXと意匠設計を担当するVUILDが発表
主な展示:「Mars Ice Home」
米国・ニューヨークを拠点とする建築家ユニット、Clouds Architecture Office(: Clouds AO / クラウズ・アオ)の日本国内での展示は、2016年から2017年にかけて森美術館で開催された「宇宙と芸術展」への出展以来となります。
同事務所は、2015年にNASA(National Aeronautics and Space Administration / 米国航空宇宙局)が実施した「火星基地設計コンペティション」で1等を獲得。同コンセプトに基づいてNASAとの共同設計を開始しているほか、2018年にはANAとJAXAによる宇宙開発実証実験施設「AVATAR X LAB」を発表しています。本展では、地球上での建築の未来を見据え、3Dプリンタ(3DP)技術を火星で展開した場合の建築提案をみることができます。

Clouds Architecture Office「極限環境での創造性と技術の融合——宇宙とつながる建築」展示風景
「今年のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展にも出展している〈Mars Hydrosphere〉では、地上に基礎をつくりその上に間の居住施設を建てるといった従来のビルディングとは異なり、火星の両極に存在し地中にも大量に埋蔵されているとされる氷を溶かしてクレーターに巨大な水のプールをつくり、その中に浮かべるアイデアを提案しました(上の画・展示中央:水槽を用いたイメージ模型)。水素は宇宙線の遮断にも有効です。今回の展示では、建つ・建たないはいったん傍において、僕らのビジョンを純粋に表現しています」(曽野正之氏談)


10月5日に開催されたオープニング・プレミアトークに、Clouds Architecture Office(Clouds AO)の曽野正之氏とオスタップ・ルダケヴィッチ氏が登壇、本展示を以下のように説明しました。
「火星での建築について考えることは、地球上での設計と無関係ではないと思うのです。なぜなら、地球からの輸送コストがかかるため、建材のもとの材料は現地調達が望ましく、徹底的に無駄を省いた設計となります。ここでのノウハウは、地球上で極めて厳しい環境におかれた人々の生活で発生する問題の解決にもつながります。いま僕たちは、3DP技術を用いて、ウクライナの住宅ないし医療・コミュニティ施設を建てるプロジェクトを、国連工業開発機関と日本の3DP住宅メーカー・Serendixと共に進めています。男性が戦地にとられて働き手が激減したウクライナでは、労働力の確保が深刻な問題となっているからです。宇宙ロケットのエンジンを3DPで出力できる今の時代、3DPには、配筋してコンクリートを流し込んで躯体をつくるといった従来の建築技術の発想を超えた、新たな可能性が多大にあると思います。」

オープニング・プレミアトーク風景(2025年10月5日撮影)
ウクライナ系米国人のオスタップ・ルダケヴィッチ氏(左端)とともにプレゼンテーション中の曽野正之氏
Clouds AO(クラウズ・アオ)日本国内でのプロジェクト
10m²300万円の3Dプリンタ住宅10棟を販売。クラウズ・アオの曽野正之氏がデザイン、日米中蘭4カ国の企業が共同設計に参加
福岡・博多にイマーシブシアターを有する新しいエンタメと食の複合施設〈010 BUILDING〉が開業、建築はクラウズ・アオ、NKS2アーキテクツ、中原拓海建築設計事務所が参画
京都大学トーマス・ダニエル研究室「NIPPONアーバニズムプロジェクト クロニクル」
上記・5組の建築家による展示のほかに、『NEXT ARCHITECTURE|「建築」でつなぐ新しい未来』展に特別協力している団体の1つ、京都大学トーマス・ダニエル研究室による展示「NIPPONアーバニズムプロジェクト クロニクル」が会場全体に展開されています。広島平和記念公園の計画がスタートした1946年から今年の2025年にかけて、年ごとにおける建築的エポックを1つピックアップ、関連書籍の見開きなどを添えて、わかりやすく展示、読み応えがあります。

京都大学トーマス・ダニエル研究室「NIPPONアーバニズムプロジェクト クロニクル」展示風景

京都大学トーマス・ダニエル研究室「NIPPONアーバニズムプロジェクト クロニクル」(抜粋)
京大 トーマス・ダニエル研究室では、建築をテキストやイメージと同様に「読む」べき対象と見なし、その精緻な読解を通じて、現代日本建築の理論的理解と批評的立場の構築を試みています。
建築を、美術、文化、政治、経済といった複数の文脈の交点に位置づけることで、それがもつ意味や可能性を問い直していきます。建築をめぐる思考が、実践と理論、経験と記述の往還のなかで立ち上がってくる。私たちの関心は、まさにそのダイナミズムにあります。『NEXT ARCHITECTURE|「建築」でつなぐ新しい未来』展示より
「ひろしま国際建築祭2025」会場レポート後編:尾道編では、尾道市立美術館で開催中のプリツカー賞受賞日本人建築家による「ナイン・ヴィジョンズ|日本から世界へ跳躍する9人の建築家」のほか、スキーマ建築計画「半建築」展、インドのスタジオ・ムンバイが手がけた〈LOG〉での特別展の様子をお伝えします(11月16日UPDATE)。
「ひろしま国際建築祭2025」会場レポート後編:尾道 / プリツカー建築賞受賞建築家による「ナイン・ヴィジョンズ」展、中山英之設計キオスク、スキーマ建築計画「半建築展」など、尾道エリアの見どころ
会期:2025年10月4日(土)〜11月30日(日)
出展建築家(*印は故人)・作家:安藤忠雄、石上純也、磯崎 新*、伊東豊雄、川島範久、高野ユリカ、妹島和世(SANAA)、丹下健三*、長坂 常、中山英之、西沢立衛(SANAA)、坂 茂、藤井厚二*、藤本壮介、堀部安嗣、前田圭介、槇 文彦*、山本理顕、VUILD / 秋吉浩気、Clouds Architecture Office、けんちくセンターCoAK、スタジオ・ムンバイ / ビジョイ・ジェイン、UMA /design farm
総合ディレクター:白井良邦(神原・ツネイシ文化財団理事、慶應義塾大学SFC特別招聘教授)
チーフキュレーター:前田尚武(神原・ツネイシ文化財団主任研究員、京都美術工芸大学特任教授)
開催地:広島県福山市、尾道市
福山/神勝寺 禅と庭のミュージアム、ふくやま美術館 (ギャラリー)
尾道/尾道市立美術館、まちなか文化交流館 「Bank」、LLOVE HOUSE ONOMICHI、ONOMICHI U2、LOG
入場料:鑑賞パスポート(福山・尾道共通3日間有効パスポート)
・会場販売 3,000円(税込)
・WEB販売 2,500円(税込)
※高校生以下、障がい者手帳の提示で本人(および介護者1名まで)無料
※「ナイン・ヴィジョンズ|日本から世界へ 跳躍する9人の建築家」を開催する尾道市立美術館のみ単館チケットの販売あり
主催:一般財団法人神原・ツネイシ文化財団
後援:文化庁、広島県、福山市、尾道市、一般社団法人せとうち観光推進機構、一般社団法人広島県観光連盟(HIT)、広島商工会議所、福山商工会議所、尾道商工会議所、一般社団法人日本建築学会、一般社団法人日本建築協会、公益社団法人日本建築家協会、公益社団法人日本建築士会連合会、一般社団法人日本建築士事務所協会連合会、一般社団法人日本建築設計学会、中国新聞社
「ひろしま国際建築祭2025」公式ウェブサイト
https://hiroshima-architecture-exhibition.jp/
公式SNS(最新のイベント情報などを発信)
https://x.com/Hiroshima_Arch
https://www.facebook.com/Hiroshima.Architecture.Exhibition/
https://www.instagram.com/hiroshima_arch_exhibition/
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*.神原・ツネイシ文化財団:建築文化を軸にした展覧会、講演会、情報発信等の事業、建築文化を軸にした地域活性化および雇用促進のための事業、地域の建築文化、伝統文化、伝統産業およびまちなみの保全に関する事業などを行うことを目的に、2024年1月30日に広島県福山市に設立された財団
https://kambara-tsuneishi-foundation.jp/
注.本稿では一部で敬称略とした