東京都練馬区が「練馬区立美術館・貫井図書館改築等基本設計候補者選定プロポーザル」を先般実施し、建築家の平田晃久氏が率いる平田晃久建築設計事務所を設計候補者に選定、同事務所を受託事業者として決定しました(練馬区発表 / URL)。
平田晃久(ひらた あきひさ)氏プロフィール
1971年大阪府に生まれ。1997年京都大学大学院工学研究科修了。伊東豊雄建築設計事務所勤務を経て、2005年に平田晃久建築設計事務所を設立。2015年より京都大学赴任、現同大学教授。
代表作(設計実績)に、2017年〈太田市美術館・図書館〉・〈Tree-ness House〉、2021年〈八代市民俗伝統芸能伝承館〉などがある。著作に『建築とは〈からまりしろ〉をつくることである』(LIXIL出版、2011年)、『Discovering New』(TOTO出版、2018年)など。主な受賞に、第13回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 金獅子賞(2012年、共同受賞)、〈太田市美術館・図書館〉にて村野藤吾賞(2018年)、BCS賞(2018年)、日本建築学会賞(作品部門、2022年)などがある。
平田晃久建築設計事務所ウェブサイト
https://www.hao.nu/
練馬区が2月6日にメディアに向けて発信したプレスリリースによれば、同区立美術館および貫井図書館(所在地:練馬区貫井1-36-16)は、西武池袋線中村橋駅の北側、徒歩約3分という利便性の高い立地にあり、昭和60年(1985年)に合築施設として開館しました。文化芸術・生涯学習の拠点として、子どもから高齢者まで、幅広い年齢層の人々に親しまれてきました。
一方で、建物や設備の老朽化が進み、大規模な改修などが必要な時期を迎えており、7,500点を超える美術館収蔵作品の活用や、大規模企画展の開催にはスペースが不足し、展示・収蔵環境やバリアフリーなど、多くの課題を抱えていたとのこと。
これらを背景に、練馬区では「練馬区立美術館再整備基本構想」を策定し(内容詳細 / URL)、隣接する東京中高年齢労働者福祉センター(サンライフ練馬)の敷地と合わせて、美術館・貫井図書館を改築するとともに、隣接する美術の森緑地も改修することを決め、今回のプロポーザルを実施して、基本設計の設計者を選定したものです。
今後は、平田晃久建築設計事務所の提案内容をもとに基本設計を進め、2027年度(令和9年度)のリニューアルオープンを目指すとのこと。
敷地面積・延床面積(想定) ※丸カッコ内の数字は現況面積
・練馬区立美術館・貫井図書館(改築)
敷地面積:4,090.3m²(2,246.2m²)
延床面積:8,000m²規模(4,358.5m²)
・美術の森緑地(改修)
敷地面積:1,894.6m²(変更なし)
既存建物現所在地:練馬区貫井1-36-16(Google Map)
課題
1.まちと一体となった美術館
2.コンセプトを実現する空間づくり、融合による相乗効果
3.施設運営や利用者の視点に立った工夫
審査担当(練馬区立美術館および練馬区立貫井図書館改築等基本設計候補者選定委員会委員):
委員長:秋元雄史(練馬区立美術館長)
副委員長:三宅理一(建築史家、東京理科大学客員教授、一般社団法人日本建築文化保存協会理事)、小金井 靖(練馬区地域文化部長)
委員:西沢立衛(建築家、横浜国立大学大学院教授、西沢立衛建築設計事務所代表)、乾 久美子(建築家、横浜国立大学大学院教授、乾久美子建築設計事務所代表)、野口武悟(専修大学教授、放送大学客員教授)、江村健二(サンツ中村橋商店街振興組合理事長)、関口登美雄(練馬区貫井町会長)、宮下泰昌(練馬区技監)
選定委員会事務局:練馬区地域文化部美術館再整備担当課
結果発表までの時系列
2022年(令和4年)8月1日:実施要項等の公表
2022年11月4日:一次審査(提案書等の提出があった22者より、以下の6組を選出)
2022年12月3日:二次審査(プレゼンテーション・ヒアリング、最終審査)
2022年12月21日:二次審査 結果通知発送
2023年(令和5年)1月下旬:基本設計の設計者を公表
2023年(令和5年)2月6日:審査結果を練馬区ウェブサイトに掲載
一次審査通過者(参加表明書提出順)
・髙橋一平建築事務所
・山本理顕設計工場
・阪根宏彦計画設計事務所
・藤本壮介建築設計事務所
・西澤・畝森設計共同体
・平田晃久建築設計事務所
二次審査結果
・設計候補者:平田晃久建築設計事務所
・次点候補者:西澤・畝森設計共同体
平田晃久建築設計事務所による提案 要点
アートと本、人々、貫井の街をつなぐ新しい公共建築として「21世紀の富士塚/アートの雲/本の山」をコンセプトに、「Shelter / Shelf / Shade」の3層構造を用いて、静と動を棲み分けた多様なバリエーションの空間をもつ多層的な建築となっている。
建物は4つのフロア(地下バックヤードを除く)で構成され、美術館と図書館が融合し、一体となっている。建物の中心には「Shelter(シェルター)」と呼ばれる空間があり、その周りを「Shelf(シェルフ)が包み、さらに「Shade)シェード)で覆われている。
Shelter(シェルター)によって守られた空間は、貴重な美術品を扱う空間として、収蔵庫や展示室の機能をもった空間となる。建物全体で重層的に包み込むことによって、温湿度管理や虫菌害対策を効率的に実施でき、作品保護のための高レベルな環境を維持する。
Shelter(シェルター)とShelf(シェルフ)のあいだの空間は、落ち着いた読書ができる空間や、ブック・アート・キッズスペースなどの図書館と創作活動を行うスペースなどが入り、さらにその外側、Shelf(シェルフ)とShade(シェード)のあいだの空間は、エントランスホールやカフェレストランなど、街や緑地に開かれた、人々が自由に活動をできる場所となる。
建物の外観は、Shade(シェード)と呼ばれる、階段状の屋根のようなものが幾重にも重なった姿で構成され、緑地から連続的につながり、オープンスペースが立体的に拡張されたような風景をつくり出す。(練馬区
2023年2月6日 プレスリリースより)審査講評
「練馬の遺産ともいうべき富士塚に想を得た構築的な提案で、大きな構想力を持ち、練馬の文化的文脈を一気にグローバルに展開し得るポテンシャルをもった案である。全体のフォルムにはまだ推敲の余地があるが、ローカルな人たちにとっても、インバウンドの人たちにとっても、建築的に新しい名所を提供する可能性を持っている。建築の中央部分に収蔵庫などのコアを置き、その周辺に開放的な中間領域となる空間をつくることで、調和させようとしている。中間領域の部分を立体化することで、公園での人々の活動が建築の外周を経てシームレスに繋がっていく。提案された多重構造に対してどう合理的な解を与えるか、まだ未確定の部分も少なくないが、今日の構造技術をもってすれば今後の作業次第で新たな空間システムづくりに繋がると期待される。美術館と図書館の融合についても様々な形で展開できる余地があり、伸びしろがある。」 (練馬区公開資料より)
今後のスケジュール
基本設計:2023年(令和5年)1月~12月
実施設計:2023年度(令和5年度)~2025年度(令和7年度)
施工期間:2025年度(令和7年度)~2027年度(令和9年度)
プロポーザルの審査結果や選定委員会の講評、設計者に決まった平田晃久建築設計事務所のプロポーザル実施時の提案書については、練馬区のウェブサイトで公開されています(ページ番号:225-293-645 / 更新日:2023年2月6日)。
二次審査の配点・講評など詳細(2023年2月6日更新 練馬区ウェブサイト)
https://www.city.nerima.tokyo.jp/jigyoshamuke/jigyosha/oshirase/bijutsukanproposal.html
※本稿は、練馬区が2023年2月6日にメディア向けに配信したプレスリリースをもとに作成(スケジュールや、選定プロポーザルにおける設計者の提案内容などは、今後変更される可能性あり)