2023年8月9日初掲、8月31日 トークイベント情報追記、9月20日〜21日会場風景画像追加、9月28日中村竜治によるテキスト追加および一部画像差し替え
建築史家の五十嵐太郎氏をキュレーターに迎えて企画される新たな展覧会シリーズ「OPEN FIELD(オープン・フィールド)」が、オカムラ ガーデンコートショールームにて始まりました(主催:オカムラ)。
「OPEN FIELD」は、気鋭のクリエイターによるインスタレーションを発表する企画展です。
第1回企画展は、建築家の中村竜治、アーティストの花房紗也香、テキスタイルデザイナーの安東陽子の3氏が参加。「ほそくて、ふくらんだ柱の群れ ―空間、絵画、テキスタイルを再結合する」と題して、3氏のコラボレーション、中村竜治建築設計事務所の会場構成によるインスタレーション作品が発表されます。
参加作家プロフィール
中村竜治
建築家
1972年長野県生まれ。東京藝術大学大学院修士課程修了後、青木淳建築計画事務所を経て、2004年中村竜治建築設計事務所を設立。住宅、店舗、公共空間などの設計を全般的に行うほか、家具、展示空間、インスタレーション、舞台美術なども手がける。
これまでの主な仕事に、2009年東京室内歌劇場オペラ『ル・グラン・マカーブル』舞台美術〈空気のような舞台〉、2010年東京国立近代美術館「建築はどこにあるの?7つのインスタレーション」展示作品〈とうもろこし畑〉、ヒューストン美術館(2010年)、サンフランシスコ近代美術館(2012年)に収蔵された〈へちま〉、2016年〈JINS京都寺町通店〉、2017年〈神戸市役所1号館1階市民ロビー〉、2018年〈Mビル(GRASSA )〉、2019年〈FormGALLERY〉、2021年〈MA nature〉、2023年21_21 DESIGN SIGHT企画展「Material, or 」会場構成などがある。
著書に『中村竜治|コントロールされた線とされない線』(LIXIL出版、 2013年)がある。中村竜治建築設計事務所
https://www.ryujinakamura.com/
花房紗也香
アーティスト
1988年ロンドン生まれ。2012年多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業。2014年多摩美術大学大学院修士前期課程修了。2014年トーキョーワンダーサイト平成26年度二国間交流事業プログラムとして、スイス・バーゼルに派遣(3カ月)。2019年、公益財団法人ポーラ美術振興財団在外研修員(フランス)。
「内と外」の関係性を室内と室外に置き換え、窓や鏡、画中画のような「フレーム」を手がかりに絵画作品を描いている。
これまでの主な展覧会に、「自動と構成」(ポーラミュージアムアネックス、東京、2021年)、個展「窓枠を超えて」(奈義町現代美術館、岡山、2021年)、個展「Collecting time」(Usine Kugler、ジュネーブ、2018年)、個展「ARKO」(大原美術館、岡山、2015年)などがある。
「VOCA展 現代絵画の展望」(上野の森美術館、東京、2013年)にて最年少で大賞を受賞。主なパブリックコレクションに第一生命保険会社、大原美術館などがある。インスタグラム @hanafusa_sayaka
https://www.instagram.com/hanafusa_sayaka/
安東陽子
テキスタイルデザイナー・コーディネーター。名古屋造形大学、多摩美術大学客員教授。
東京生まれ。武蔵野美術大学短期大学部グラフィックデザイン科卒業。株式会社布での勤務を経て、2011年安東陽子デザイン設立。
多くの建築家が設計する公共施設や個人住宅などにテキスタイルを提供。
近年の主な協働作品として、台中国家歌劇院」(伊東豊雄建築設計事務所)、みんなの森 ぎふメディアコスモス(伊東豊雄建築設計事務所)、西武特急車両Laview(妹島和世建築設計事務所)、京都市京セラ美術館(青木淳・西澤徹夫設計共同体)、南方熊楠記念館(シーラカンスアンドアソシエイツCAt)、白井屋ホテル(藤本壮介建築設計事務所)、八戸市美術館(西澤徹夫建築事務所・PRINT AND BUILD・森純平)などのほか、シアターカンパニー・アリカに衣装担当として参画。
著書に『安東陽子|テキスタイル・空間・建築』(LIXIL出版、2015年)がある。Yoko Ando X(旧Twitter)
https://twitter.com/andoyokoyo
企画・キュレーター五十嵐 太郎氏コメント
オカムラのガーデンコートショールームに「OPEN FIELD」という新しい表現の場が誕生する。
「OPEN FIELD」には、あらかじめ想定された形式ではなく、予期されない出会いや出来事が起きる原っぱのようなイメージを重ねあわせた。そこで3名の異なるジャンルのクリエイターに参加してもらい、絵画とデザインをともに体験してもらう風景としての空間をつくることを企画した。
もっとも、絵画の作品が入るので、当然、壁がつくられるかと思いきや、中村竜治さんからは少しふくらんだ細い柱が林立する空間が提案された。したがって、画家の花房紗也香さんは、本展のための新作を描いた後、柱にその断片的なイメージを足していくというこれまでにない作業を行うが、こういう機会に挑戦してみたいとのこと。すなわち、通常の囲まれた『部屋』における展示ではなくなるため、『絵画』も解体される。来場者は、絵の断片が散りばめられた森の中を散策するだろう。また安東陽子さんは、これまで空間を仕切る柔らかい壁のようなテキスタイルの作品が多かったが、今回は柱頭にあたる部分を担当し、しかも柱を安定させるという構造の役割を果たす。これは彼女にとって初の試みである。
今回の「OPEN FIELD」では、空間、テキスタイル、絵画の関係性の組み換えが行われる。それも周囲と切り離された展示空間をつくるのではなく、いつもの部屋に特殊な柱の群れを挿入することで、見慣れた室内の風景を異化させる。一方で建築の歴史を振り返りながら考えると興味深い。例えば、古典主義の円柱は、柱身に膨らみ(エンタシス)があって、柱頭が分節されている。また中世の柱は多様な装飾をもっていたり、バロックにおいては絵画と建築が混交するような関係性をもつ。今回の試みは、こうした過去の事例に対する、21世紀的な表現かもしれない。
本展を企画・キュレーションした五十嵐太郎氏から中村竜治氏に出されたリクエストは「絵画のための展示室と家具をつくってほしい」というもので、これに対して中村氏は(間仕切りではなく)77本の杉材のエンタシス柱をデザイン、会場に配置した。
花房紗也香氏の作品は、1枚の絵を5分割したものを熱収縮フィルムに印刷し柱に巻きつけている(会場内の作品数としては2点) 。
エンタシス柱の接地部分は金具も緩衝材も使用しておらず、天と地の2点で柱を支えている
杉の木は摩擦の抵抗力でのみ固定されている。柱頭部分・天井面と杉の柱の間の緩衝材は、安東陽子氏が本展のためにデザイン・製作した「構造クッション」。複層構造ながらとても軽く、柔らかい。この球体のテキスタイルが、本展では構造体として重要な役割を果たしている。
開催18回を数えたオカムラデザインスペースR(ODS-R)展に出展してきた建築家からの要望に応え、安東氏はこれまでに何度も展示協力を行っている。
「オカムラデザインスペースには強い思い入れがある。今回の展覧会にテキスタイルデザイナーとして参加できて感慨深い」(安東氏談)。
“空間、絵画、テキスタイルを再結合する”本展は、3氏の作品がどれ1つ欠けても成立しない。緊張感ある柱の固定方法と相まって、コラボレーション展として絶妙な均衡を保っている。
「壁を立て部屋をつくり絵画を掛けたりファブリックを吊ったりするだけと、単なるグループ展になってしまい、コラボレーションが生まれづらい。そうならないように会場をデザインした」(中村氏談)。
五十嵐氏から中村氏へのリクエストの2つのうちの1つ、杉のエンタシス柱による家具が会場内に配置され、座ることができる(製作協力:オカムラ) 。
なお、中村氏と安東氏はこれまで何度かプロジェクトで協働しているが、五十嵐氏と中村氏がタッグを組むのは今回が初とのこと。
会場構成コンセプト
建築家、アーティスト、テキスタイルデザイナーという異なるジャンルの3人の作家のコラボレーションによる展示です。
アーティストの花房紗也香さんの絵画を鑑賞する展示空間(そこには安東陽子さんのファブリックや私による家具も空間の要素としてある)をつくるというのが企画の五十嵐太郎さんによるお題でした。
まず私が空間を提案するところから始まったわけですが、単なるグループ展にならないように、お互いが領域を侵食し合ったり、誰か1人が欠けても成立しないような関係を生み出す空間がつくれないかと考えました。
そこで、壁による空間構成はお互いを遠ざけてしまうのではないかと思い、細くて膨らみのある柱(エンタシス柱)による空間を提案しました。
壁による空間よりも絵画展示の難易度は上がりますが、そのぶん花房さんから面白い発想が出てくるのではないかと期待しました。
花房さんは1枚の絵を5分割しそれぞれ柱に巻きつけるという方法で、柱の群の中に浮遊するような空間的な作品をつくりました。
絵は柱の裏側に回り込むので完全には繋がらず、鑑賞者は絵を観るというよりは脳内補完しながら1枚の絵をなんとなく感じるというような空間・時間的体験を生み出します。
一方、ビスの打てない場所に柱をどうやって自立させるかという問題が生まれたのですが、柱と天井の間にクッションを挟み込みその反発力と摩擦力で倒れないようにするという方法を考え、そのクッションのデザインを安東さんにお願いしました。
安東さんは複数の素材を組み合わせ、天井の不陸を吸収しながら適度な摩擦を生み出す、毬藻のような可愛らしくもテキスタイルの可能性を広げる作品をつくってくれました。
家具はエンタシス柱を利用してつくり、柱の再利用を示唆するようなデザインとしました。
テーブルとスツールは私のデザインしたもので、積木状のものはオカムラの麻生菜摘さんによってデザインされたものです。
実際に柱は展示後オカムラのデザイナーによってデザインされた家具に再利用される予定です。
このようにして、空間、絵画、テキスタイルが密接に結びついた1つの展示となっています。(中村竜治)
タイトル:「ほそくて、ふくらんだ柱の群れ ―空間、絵画、テキスタイルを再結合する」
企画:五十嵐太郎(建築史家、東北大学大学院工学研究科教授)
参加作家(敬称略):中村竜治(建築家)、花房紗也香(アーティスト)、安東陽子(テキスタイルデザイナー・コーディネーター)
会場構成:中村竜治、若木麻希子(中村竜治建築設計事務所)
絵画:花房紗也香
テキスタイル:安東陽子、松井萌真(安東陽子デザイン)
施工:TANK
グラフィック・デザイン:山田悠太朗(centre Inc.)
会期:2023年9月19日(火)~9月29日(金)
会場:オカムラ ガーデンコートショールーム
所在地:東京都千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニガーデンコート3F(Google Map)
開場時間:10:00-17:00
※9月23日(土・祝)はイベント開催のため13:00-17:00
休館日:9月24日(日)
入場料:無料(予約不要)
主催:オカムラ
関連イベント「アーティスト・トーク」
登壇(予定):中村竜治、安東陽子、花房紗也香、モデレーター:五十嵐太郎
※登壇者は、予告なく変更となる場合あり
日時:2023年9月23日(土・祝)15:00-16:00(受付開始:14:30)
会場:オカムラ ガーデンコートショールーム
参加方法:要予約(特設ページ内に案内あり、専用フォームから申し込み)
オカムラ Webサイト「OPEN FILED」特設ページ
https://www.okamura.co.jp/corporate/special_site/event/openfield23/