その姿が銀座の街に出現して以降、SNSなどに外観写真が数多くアップされ、オープン前から注目度の高かった〈ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店〉が、2021年3月20日(土)に開業の日を迎えました。
これまでに本誌の速報やSNSでもお伝えしてきた通り、世界の第一線で活躍する建築家の2人が設計とデザインに携わっており、青木 淳氏(AS代表)がファサードを含む建物の設計を担当。アメリカ・ニューヨークを拠点とするピーター・マリノ氏(ピーター・マリノ・アーキテクト代表)がブティックとプライベートサロンの内装を手がけています。
世界がコロナ禍に見舞われた時期を含め、日本とアメリカとで対話を紡ぎ、完成した建築作品です。
〈ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店〉概要
所在地:東京都中央区銀座7-6-1
主要用途:物販店舗、飲食店
構造:鉄骨造
規模:地上8階建て(屋上を含む)
建築面積:310.1m²
設計(建築本体・外装を含む):AS(青木淳、竹内吉彦)
構造設計:金箱構造設計事務所(金箱温春 野田賢)
インテリアデザイン:
1-4F・6F:ピーター・マリノ・アーキテクト(Peter Marino Architect)
7F飲食店:乃村工藝社A.N.D.(AOYAMA NOMURA DESIGN / 小坂 竜)
施工:
清水建設
旭ビルウォール(外装)
J.フロント建装(店舗内装)
綜合デザイン(飲食店内装)
着工:2019年6月
竣工:2021年1月
オープン日:2021年3月20日(土・祝日)
営業時間:11:00-20:00
定休日:不定休
https://louisvuitton.com
建築本体と外装の設計・監理は青木淳氏の事務所AS
【TECTURE MAG】では、オープンの2日前に開催されたプレス向け内覧会を取材。建築本体と外装の設計・監理を担当した設計事務所、AS(2020年に青木淳建築計画事務所よりASに改組)の竹内吉彦氏とAS代表の青木淳氏による館内ツアーでのレクチャー内容を添えて、館内レポートをお届けします。
特記を除き、内外観の画像は、TEAM TECTURE MAG(テクチャー・マガジン編集部)の撮影
先ずは、この不思議な外観のデザインの成り立ちから説明します。
他に類を見ない圧倒的なファサード
このビルの特徴は、なんといっても、3次元曲面のファサードです。港湾都市としての東京、遡るとかつては海に突き出た砂洲だった、銀座という土地の歴史性に由来するデザインで、海の青、水の流れを表現して、ビル全体で「水の柱」を象徴しています。
さざ波のような曲線を描き、なめらかに波打つファサードの形状は、水面の揺らぎを感じさせます。この3次元曲面にあわせて、ルイ・ヴィトンが1981年に初めて店舗を構えた銀座の街並みが映し出します。さらには、その日、その時の天候や太陽の傾き、陽光の強弱が、ファサードに独特の色をもたらし、ガラス全体へと広がります。
ぬめぬめとした素材感もあるこの不思議なファサードは、いったい何の建材を使って、どのようにデザインされたのか? 建築業界関係者でなくとも興味津々です。
水をイメージした青やオレンジに反射する光
青木 淳氏が設計・デザインしたビルの外壁は、大きく2種類のガラスで構成されるダブルスキンとなっています。外側は合わせガラス、内側は断熱性能が高い複層ガラスです。外側の「うねり」は、板ガラスを3次元曲面の型によって成形しています。
「かつてこの地にあった海、水をイメージしたビルを全体でデザインした。水をイメージした、ターキッシュブルーのような青系に反射する光が欲しかった」と青木さん。
この「青系の反射光」は、青とは補色関係にある橙(オレンジ)系の光を分光する効果を利用することで、可能となっています。
太陽光のうち可視光は、波長の長短の違いから7つの色があります。例えば、人間の目に赤く見える花があるとすれば、花びらが赤い光の波長を強く反射する(弾く)ためで、晴天時の空が青く見えるのは、空気中で散乱する青い波長の光が強いためです。
さて、このビルの外壁ですが、合わせガラスと複層ガラスから成ると前述しました。2枚のガラスで構成される合わせガラスの中間面に、オパール貝のような光を放ち、無限のカラーバリエーションを生み出すダイクロイック加工が真空蒸着で施されています。このオパール蒸着層が、オレンジ系の波長の光を反射し、補色関係にある青系の光を透過させます。さらに、そのガラスの裏面には白い特注フィルムも貼られています。オパール蒸着層を透過した青系の光は、白いフィルムに当たることでブルーがかって見えます。大きな水柱のように見えるのはこのためです。
誰しも「理科の時間」で習ったことのある光の特質を生かしたデザインが、〈ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店〉の不思議な外観を大きく特徴づけています。
反射光同士も混ざり合い、角度によってはシャンパンゴールドがかって見えたりと、表情豊かな、見飽きることのないファサードに仕上がっています。
なお、ファサードの外側のガラス面には、特別な処理は何も施していないとのこと(青木氏談)。
ファサードの基本形はわずか3種類!
複雑な形状に見えるファサードですが、聞けば、ファサードを構成するガラスは、役物(やくもの)部分を除き、サイズの異なる3つの型からつくられた3種類のパネルしかありません。ガラスを三次元曲面に曲げる場合、型の種類の数がそのままコストに跳ね返ってくるため、少ない型の数をランダムに組み合わせることで複雑な表情がつくられています。
各パネルの3次曲面形状はいずれも、一方の対角2点を外部側に50mm,他方の対角2点を内部側に50mm移動することで、合計100mmの高低差を付け、その点同士をサインカーブで繋ぐシンプルな図式で成形されています。曲面形状の僅少な誤差については、隣り合うパネル同士の相対差が小さくなるよう全パネルを3D計測・再3Dモデル化し並べ替える最適化を経て、滑らかな外壁面が実現していったとのこと。
ガラスパネルを支持する金物は、合わせガラスの間に隠され、外側からは見えません。
また、地震発生時に強い揺れに見舞われた際には、ガラスが横にスライドして、スウェイ方式で層間変位を吸収する構造となっているため、目地幅はガラスパネルの取り外しに最低限必要な20mmにまで抑えられています。
滑らかな外装の表面には汚れのたまる水平面がないため、降雨による雨だれ汚れも少ない見込みで、清掃時には周囲に建っているビルと同様に、ロープブランコで清掃作業することができるなど、メンテナンスの面でもかなり考え抜かれてデザインされています。
このファサードのデザインに際して、ASでは幾つものサンプルをつくり、検討を重ねました。銀座の風景の中で実際にどのような光の効果が得られるかは、ガラスサンプルを工場で見ても「正直、わからなかった」と竹内氏。モックアップをつくり、現地でモックアップをクレーンで吊り上げ、実際の風景の中で何度も実験を繰り返しました。
天候や太陽の高さ・傾きの違いで見え方が異なるファサードは、このようにして誕生しました。
ブティックのインテリアデザインはピーター・マリノ氏
青木 淳氏がつくりあげた「ハコ」の中に入る、ブティックのインテリアデザインは、アメリカ人建築家のピーター・マリノ氏が担当。2020年2月に大阪にオープンした〈ルイ・ヴィトン メゾン 大阪御堂筋〉でもインテリアデザインを手がけ、青木氏とのタッグも連続となります。
2フロア分の吹き抜けを有する開口部は透明で、街角に沿って曲線を描き、空間が広がる店内へと続く遠近感を演出しながら、ルイ・ヴィトンのシグネチャーであるウィンドウ・ディスプレイが展開されます。
オープニングを飾るのは、LVのモノグラムが施された水棲生物、巨大なクラゲのアートワークです。
並木通りと交詢社通りがクロスするコーナーに面したエントランスにはドアマンが立ち、スマートな所作で扉を開けくれます。
フロア構成:
1-4F:ブティック
1F:ウィメンズ(レザーグッズ、ウォッチ&ファインジュエリー、ポップイン・スペース)
2F:ウィメンズ(レザーグッズ、アクセサリー、トラベル、フレグランス)
3F:ウィメンズ(プレタポルテ、シューズ)
4F:メンズ
5F:オフィス
6F:プライベートサロン
7F:カフェ「ル・カフェ・ヴィー(LE CAFE V)」
店内も「水」をイメージした空間デザイン
1Fのブティック奥には青い壁で囲われた空間が用意され、季節に応じた新商品などを展開するポップイン・スペースとして機能します。
2Fへはエレベーターもありますが、吹き抜け空間を緩やかにつないだ螺旋階段を使うことをお勧めします。
店舗の至るところ、例えば、1Fと2Fをつなぐ螺旋階段の手すりのブルー、曲線のカウンターや天井パネルの形状などに、水の循環を表現したメタファーを見ることができます。店舗の内と外とを貫く共通のコンセプトです。
全てのフロアでインテリアは必見!
全てのフロアに共通することですが、テーブルやチェアなどの家具、商品を展示した什器も見どころです。
店内には、モルテン・ステンベークやイサム・ノグチが手掛けた軽やかなファニチャー(上の写真)や、この店舗のために造作されたオリジナルのチェアなどが配置され、これらを見て回るだけでも充実したひとときが過ごせそう。フィッティグルームとて見逃せません。
それぞれを構成する素材も、大理石、ガラス、アクリル、名栗加工が施されたカウンター側面の木材など、それぞれがもつマテリアルとしての魅力をシンプルに引き出した細やかなデザインが、柔らかく、上質な空間を演出しています。
3層吹き抜けの螺旋階段の壁もアート作品!
2Fから4Fまでを螺旋階段で貫く、3層吹き抜けの大空間の内装も必見です。作家の藤村喜美子氏の絵画《Wave Blue Line》(1977年)を再解釈し、石膏でアーティスティックに表現したフィーチャーウォールがあしらわれています。
吹き抜けの螺旋階段を上がり切った4Fは、メンズのアイテムが揃うフロアです。
エレベーターには絶対に乗ること!
5FにはLVのオフィスが入っており、6Fに用意されたサロンスペースとカフェに行くには、エレベーターを使います。
ブティックでの買い物だけという人も、帰りはエレベーターにぜひ乗ってください。なぜなら、ファサードからインスパイアされたガラスのデザインが施されているからです。
外壁のガラスパネルと同じオパール蒸着を施しているのですが、裏面に白いフィルムを貼っていないので、ファサードとは異なる表情に。さらに合わせ鏡の仕様となっていて、目的のフロアに到着したことにも気づかずに、いつまでも眺めてしまいそうです。
プライベートサロン特別公開
6Fはプライベートサロン専用フロアで、限られた顧客しか入室できないところ、この日は特別にプレスに公開されました。
6Fは東京初上陸のカフェ「LE CAFE V( ル・カフェ・ヴィー)」
7Fには、東京初上陸となるルイ・ヴィトンのカフェが出店。〈メゾン 大阪御堂筋〉に続き、メゾン ルイ・ヴィトンとは2度目のコラボレーションとなる、著名なシェフ・須賀洋介氏が手がける「LE CAFE V(ル・カフェ・ヴィー)」がオープン。
カフェフロアのインテリアデザインは、小坂 竜氏が率いる乃村工藝社A.N.D.が担当しています。
こちらのカフェでは、ルイ・ヴィトン初のチョコレートラインとなる「LE CHOCOLAT V(ル・ショコラ・ヴィー)」が4月下旬より展開する予定です。
7Fの開口部(白フィルムがグラデーション状に透明になっていく楕円部分)は、やや大きめに、横に長く取られています。
天井には、紙を使ったアートワークが軽やかに展開。
この日の内覧会では特別に、通常は一般公開されていない屋上にも上がることができました。
下の写真は、屋上のガラス壁面からの、階下のカフェの見下ろしです。
屋上(8F)にはウッドデッキが張られ、いずれなんらかの空間利用ができるように用意されています。
屋上に上がると、ダブルスキンの構成と、オパール蒸着されたガラスの効果が改めてわかります。
設計を担当したASの竹内氏によれば、3次元曲面のガラスファサードをもつビルは、ヘルツォーク&ド・ムーロンが手がけた〈プラダ青山店〉などもよく知られていますが、かのブティックビルが建てられた約18年前に比べて、ガラスの曲げ加工技術は段違いに上がっており、逆にコストはかなり下がっているとのこと。〈ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店〉のファサードの設計をしている間にも、製造現場は日進月歩の進化を遂げていったそうです。
遡れば、1年前にオープンした大阪の旗艦店〈ルイ・ヴィトン メゾン 大阪御堂筋〉も、江戸期に商都として大いに栄えた時代のイメージからインスパイアされた商船から着想を得た、帆船のようなファサードをガラスでデザインしており、大阪と銀座で、「海」のイメージが連続しています。さらには、大阪の現場で試行錯誤を重ねた際の加工技術の経験値が、銀座並木通りの店舗にも生かされています(竹内氏談)。
青木氏によれば、建築設計と、内部のインテリアを担当する事務所が分かれているプロジェクトの場合、外壁も含めてハコとなる構造的な部分の設計と工事がスケジュールとして先行し、インテリアデザインが本格化するのは、鉄骨も立っている後になるのが常であり、後から求められるさまざまな可能性を予め想定しておく困難さが現場にはあります。
〈ルイ・ヴィトン メゾン 大阪御堂筋〉に続き、青木氏とピーター・マリノ氏、小坂氏によるデザインにおいては、海と水をイメージしたコンセプトや、吹き抜けで2カ所に設置する階段の位置や構造、2Fは階段から階段へ突っ切る動線となること、ダブルスキンのファサードに設ける採光の位置など、要所で情報を共有しながら設計を進めました。この共同作業により、内と外とでイメージが連続した1つの建築となっています。(en)
〈ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店〉
所在地:東京都中央区銀座7-6-1(Google Map)
営業時間:11:00-20:00
定休日:不定休
TEL:0120-20-4106
オープン日:2021年3月20日(土・祝日)
「LE CAFE V(ル・カフェ・ヴィー)」
所在地:ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店 7F
営業時間:11:00-20:00
オープン日:2021年3月20日(土・祝)店舗と同日オープン