[大阪・関西万博]最古で最先端!「木」を用いた建築・パビリオン特集 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
FEATURE
Expo 2025: Wooden Building and Pavilions
FEATURE

万博が伝える「未来の素材」としての木

[大阪・関西万博]人類最古の素材を用いた最先端の建築とパビリオンを一挙紹介!

万博は常に、その時代を象徴する建築のショーケースであり、ガラスと鉄のパビリオンが近代を象徴したように、建築はいつも社会の価値観や技術革新を映し出してきました。2025年の大阪・関西万博では「木」が再び大きな存在感を示そうとしています。

人類最古の建材でありながら、最先端のサステナブル素材として脚光を浴びる木。この記事では、万博と木造建築の歴史をたどりながら、木質パビリオンの現在地を見ていきます。

TECTURE MAGでは他にも大阪・関西万博のさまざまな関連記事を作成しています!
大阪・関西万博特設ページはこちら

EXPO2025 – 建築からみた万博 –

革新を象徴する万博という舞台における素材

木材は人類最古の建材であり、木造建築は私たちにとって最も馴染みのある建築とも言える存在です。だからこそ、「建築の実験場」としての側面をもつ万博では、主役となる建築には鉄やガラス、コンクリートといった近代的な素材が多く用いられてきました。

それを象徴するのが、第1回国際博覧会である1851年ロンドン万博にてジョセフ・パクストン(Joseph Paxton)が設計した、鉄骨とガラスでつくられた巨大な建築〈クリスタル・パレス〉です。

〈クリスタル・パレス〉のイラスト(Credit: Hein Nouwens / iStock)

産業革命を象徴するこれらの材料は、国土の多くを森林が占める日本のパビリオンにおいても多く使用されており、1970年に開催された日本初の万博である大阪万博の〈日本館〉においても構造は鉄骨であり、木材はあまり使用されていませんでした。木造を採用した各国のパビリオンもありましたが、先進性を表現するというよりも、その国の文化的側面を表すような使用方法となっていました。

「未来の素材」としての木

21世紀に入り、「サステナビリティ」が建築界の最大のテーマの1つとなりました。木は再生可能であり、炭素を固定する特性を有することから、気候変動対策の観点でも注目を集めています。さらに、CLT(直交集成板)に代表される新しい技術の登場によって、大規模・高層の木造建築が現実のものとなりました。

こうして木材は「古い素材」から「未来を拓く素材」へと再評価されつつあります。そして今回の大阪・関西万博でも、各国がもち寄る最先端の木質パビリオンが集まり、伝統と革新が交差する舞台となろうとしています。

日本古来の貫接合(ぬきせつごう)と集成材でつくる世界最大の木造建築〈大屋根リング〉設計:藤本壮介、写真: TEAM TECTURE MAG

国産スギを用いた約560枚のCLTで構成された〈日本館〉総合プロデュース:佐藤オオキ、写真提供:経済産業省

大阪・関西万博でみせる木質建築の進化

ここからは、大阪・関西万博の会場に建設された木を用いた建築・パビリオンを、その特性と併せて紹介します。

◾️ギネスを更新した巨大木造建築〈大屋根リング〉

設計:藤本壮介
概要:内径約615m、外径約675m、周長約2kmにおよぶギネス世界記録にも認定された世界最大の木造建築物

Photo: TEAM TECTURE MAG

[大阪・関西万博Reoort]世界最大の木造建築、全周約2kmの大屋根リングからレポートするExpo 2025の見どころ

◾️小さな木材で生み出す構造〈いのちの遊び場 クラゲ館〉

プロデューサー:中島さち子(音楽家、数学研究者、STEAM 教育家)
建築デザイン:小堀哲夫(小堀哲夫建築設計事務所)
概要:4600本以上もの吉野杉の角材(木片)を粘菌のように組み合わせた「創造の木」

Photo: TEAM TECTURE MAG

[大阪・関西万博]シグネチャーパビリオン紹介_中島さち子氏

◾️古い木造校舎のクリエイティブな移築プロジェクト〈Dialogue Theater – いのちのあかし – 〉

プロデューサー:河瀨直美(映画作家)
建築設計:周防貴之(SUO)
概要:昭和前半から建つ3棟の歴史ある木造校舎を移築・活用し、新たな建築として再生させたパビリオン

エントランス棟(左)、対話シアター棟(中央奥)、森の集会所(写真右)、手前が記憶の庭 ©Naomi Kawase / SUO, All Rights Reserved.

[大阪・関西万博]シグネチャーパビリオン紹介_河瀨直美氏

◾️透明性の高い木による森のような空間〈ウズベキスタンパビリオン〉

コンセプトデザイン:アトリエ ブルックナー
概要:トレーサビリティタグのついた286本の国産丸太によるパーゴラ

Photo: 松村芳治

[大阪・関西万博]海外パビリオン紹介_ウズベキスタン

◾️解体・再利用が容易な木造建築〈イタリアパビリオン also hosting the Holy See〉

設計:マリオ・クチネッラ・アーキテクツ
概要:再生可能資源である集成材を使用し、乾式工法とモジュール工法を採用した「リバーシブル建築」

Photo: Yumeng Zhu

[大阪・関西万博]海外パビリオン紹介_イタリア・バチカン

◾️木製モジュールによる螺旋壁〈ポーランドパビリオン〉

設計:インタープレイアーキテクツ、コムワイスタジヲ
概要:来場者を内部へと引き込む、松の木と日本の大工技術を活かした木製モジュールの螺旋壁

Ⓒ Fernando Guerra

[大阪・関西万博]インタープレイアーキテクツとコムワイスタジヲが設計した〈ポーランドパビリオン〉

◾️小さな敷地に260mの通路を生み出す螺旋の空間〈チェコパビリオン〉

設計:Apropos Architects
概要:スプルース材のCLTパネルを用いた、木とガラスでできた螺旋のパビリオン

© BoysPlayNice

[大阪・関西万博]Apropos Architects設計〈チェコパビリオン〉

◾️自国の海洋文化を体現する「木造×帆」の建築〈バーレーンパビリオン〉

設計:リナ・ゴットメ
概要:バーレーンの海洋文化への敬意を示す、伝統的な造船技術を体現する木造パビリオン

Photo: TEAM TECTURE MAG

[大阪・関西万博]海外パビリオン紹介_バーレーン

◾️北欧の未来像を示す、展示スクリーンまでサステナブルな建築〈北欧パビリオン〉

設計:ミケーレ・デ・ルッキ&AMDL Circle
概要:時代を超えた持続可能な価値観を体現する、木のデザインとリサイクル可能な素材を活用した木造構造

〈北欧パビリオン〉オフィシャル素材より

[大阪・関西万博]海外パビリオン紹介_北欧

◾️CLTパネルを大判のまま活用した〈日本館〉

総合プロデュース:佐藤オオキ
概要:会期後の解体・返却・再利用を前提とした、国産スギを用いた約560枚のCLTでつくるパビリオン

写真提供:経済産業省

[大阪・関西万博]国内パビリオン紹介_日本館

◾️HP曲面+ヒノキ合板による「新たな木質建築」〈住友館〉

設計:日建設計
概要:木を大事に使うことから導かれた「合板曲面仕上げ」のパビリオン

東側側面の立面。Photo by Jun Kato

[大阪・関西万博 Interview]〈住友館〉/ 日建設計:HP曲面+ヒノキ合板による“新しい木質建築”

大阪・関西万博では、これまで紹介したパビリオンに加え、若手建築家によるトイレプロジェクトにも、木を活用したユニークな建築が存在します。

◾️容易な再利用を実現する、穴を開けないディテール〈One water(トイレ6)〉

設計:KUMA & ELSA
概要:内外仕上げに用いた木材は、会期後の再利用を容易にするために、穴を開けず木のブロックで押さえて固定

Photo: KUMA & ELSA

[大阪・関西万博]トイレや休憩所などを紹介_トイレ6

最後に、木ではないですが同じく世界的に注目を集める自然素材である「竹」を活用したプロジェクトをご紹介します。

◾️カーボンファイバー、竹、紙管でつくる3種のドーム〈ブルーオーシャン・ドーム〉

設計:坂茂建築設計
概要:3つのドームのうちの1つに竹を採用し、集成材に加工することで直径19mのドームを実現

https://mag.tecture.jp/culture/20250523-129055/

 

木は最も古く、同時に最も新しい建材であり、伝統的な美意識と最先端技術、循環型社会への志向を同時に体現できる存在として、いま再び世界の舞台で注目を集めています。2025年大阪・関西万博に集う木質パビリオンは、単なる展示空間ではなく、建築の未来を問いかける実験の場と言えるのではないでしょうか。

 

他にも、TECTURE MAGでは大阪・関西万博のパビリオンにまつわる特集記事を作成しています!

8人のプロデューサーと建築家が手がけたシグネチャーパビリオン特集はこちら

[大阪・関西万博]シグネチャーパビリオンを一挙紹介!各分野のトップランナーが見据える未来を映す、個性豊かな8つのパビリオン

各国のアイデンティティを体現する海外パビリオン特集はこちら

[大阪・関西万博]万博行ったら見ておきたい海外パビリオン特集!

膜の特性を活かした膜建築特集はこちら

[大阪・関西万博]万博にいったら見ておきたい「膜建築」特集

環境への負荷を低減するサーキュラーエコノミー特集はこちら

[大阪・関西万博]万博で深めるサーキュラーエコノミー特集 第1弾

アンケート結果からみる読者が選ぶ万博建築ランキングはこちら

[大阪・関西万博]読者が選ぶ万博建築ランキング!

 

【購読無料】空間デザインの今がわかるメールマガジン TECTURE NEWS LETTER

今すぐ登録!▶

大阪・関西万博 Topics

FEATURE

事前に知りたい!大阪・関西万博の会場構成

パビリオンの計画へとつながるテーマ、コンセプト、基本計画を解説
FEATURE

大阪・関西万博の見逃せない建築ポイントを紹介

[Interview]五十嵐太郎流|SNS時代の万博の見方・楽しみ方
FEATURE

議論が深まった「万博と建築」

[Interview]大阪・関西万博の意義と建築家の役割を五十嵐太郎が語る(1/5)
【購読無料】空間デザインの今がわかるメールマガジン
お問い合わせ