公益財団法人日本財団が渋谷区の協力のもと進めているプロジェクト「THE TOKYO TOILET」は、性別、年齢、障害を問わずに誰もが快適に使用できる公共トイレを、渋谷区内の17カ所設置する計画で、2020年8月5日に計3カ所が供用開始し、現在までに公園や駅前など計12カ所でそれぞれの公共トイレが完成しています。
「THE TOKYO TOILET」(以下:TTTプロジェクト)では、暗い、汚い、臭い、1人で使うのが怖いといった、人々の大半が抱く公共トイレのネガティブなイメージを、優れたデザイン・クリエイティブの力で刷新し、ジェンダーレスでインクルーシブな社会のあり方を提案、東京・渋谷から世界へ向けて発信することを目的としています。
この趣旨に賛同した、世界的に活躍する建築家・クリエイター諸氏が多数参画しており、人々の生活に共存するアートにまで昇華された公共トイレが次々と生み出されました。
これまでの活動の内容が評価され、17カ所での完成を待たずして、2021年度グッドデザイン賞を受賞しています。
海外からも大きな注目を集めているTTTプロジェクトで誕生したトイレが、映画『パリ、テキサス』や『ベルリン・天使の詩』などの作品で世界的に知られる、ドイツ出身の映画監督・ヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)氏の次回作の舞台となることが明らかになりました。
アートプロジェクト「THE TOKYO TOILET Art Project with Wim Wenders」として、5月11日に都内にて行われた記者会見にて、全世界へ向けて発信されています。
会見には、神宮通公園の公共トイレを手がけた、建築家の安藤忠雄氏も出席しています。
ヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)氏プロフィール:
1945年生まれ。70年代のニュー・ジャーマン・シネマ時代を生み出した1人でもあり、現代映画界を代表する映画監督。数々の賞を受賞している『パリ、テキサス』(1984)や『ベルリン・天使の詩』(1987)などの代表的な長編作品以外に、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999)、『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(2011)、『セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター』(2014)、『ローマ法王フランシスコ』(2018)など、数多くの斬新なドキュメンタリーなども手がけている。
さらに、監督業だけでなく、プロデューサー・写真家・作家としても活動を広げている。彼の撮影した写真は、世界中の美術館で展示され、写真集やフィルムブックなども彼が書いたエッセイと共に出版されている。
現在、妻のドナータ・ヴェンダースとともにドイツ・ベルリンに在住。夫妻は2012年に、デュッセルドルフにNPO財団「ヴィム・ヴェンダース財団」を立ち上げ、ヴェンダース作品の復元とともに、視聴者がいつでも作品にアクセスできるよう、作業を進めている。同財団を通して、若いアーティストに「Wim Wenders Grant」を授与するなど、次世代の映像作家たちを支える活動にも取り組んでいる。
TTTプロジェクトでは、建てて終わりではなく、渋谷という立地で、その後もいかにトイレを美しく保つかということにも重きが置かれているのが特徴です。
各所のトイレは、1日3回、継続して清掃されており、清掃員のユニフォームは、神宮前公衆トイレ〈THE HOUSE〉をデザインしている、ファッションデザイナーNIGO®(ニゴー)氏が手がけたもの。背にロゴをあしらった、ネイビーカラーのツナギ服です。
プロジェクトの趣旨、社会的意義に賛同したヴェンダース監督は、東京が舞台となる次回作の撮影地として、TTTプロジェクトのトイレを使うことを決定。TTTプロジェクトのトイレを快適にするために働く清掃員男性を主役としたストーリーを構想、俳優の役所広司氏が主演を務めます。
ヴェンダース監督は、このほど11年ぶりとなる来日を果たし、東京・渋谷の街並みや、TTTプロジェクトの公共トイレなどを視察するなど、シナリオハンティングを行ったとのこと。
また、建築家の安藤氏とは以前から交流があり、今回の記者発表の場が再会の場に。記者会見の前には、安藤氏がデザインした神宮通公園内のトイレ〈あまやどり〉が報道陣に公開されました。
「まず、柳井さんと笹川さんが、意義のあることをしたいと、これに賛成しまして、美しいトイレを通して日本の美意識を発信したいという話を聞き、TTTプロジェクトに参加しました。」(安藤忠雄氏コメント)
「安藤さんの作品は以前から敬愛しています。アメリカ、ヨーロッパでの作品やパリのオープニングにも伺いました。彼とはつながりを感じていて、真の同世代のクリエイターだと思っています。」(ヴィム・ヴェンダース氏コメント)
5月11日の記者発表会には、安藤氏、柳井氏、高崎氏のほか、渋谷区の長谷部健区長も出席。東京都の小池百合子知事からも東京での撮影に関しての全面サポートを約した特別メッセージが寄せられています。
さらに、今回の映画作品に主演する俳優の役所広司氏も登場。会見に華を添え、関係者によるトークセッションにも参加しました。
ヴィム・ヴェンダース監督コメント(プレスリリースより要約、以下コメントも同)
「本当にこの場にいられることを大変光栄に思っています。皆さんから手紙をいただいた時は、本当に最高のクリスマスプレゼントだと思いました。
東京にはしばらく来ることができず、少しホームシックでしたが、今回ようやく来日することができて、そしてこのTTTプロジェクトを実際に目にすることができて、ワクワクしています。
(中略)
大きなチャレンジである今回の企画では、社会的に意義があるものを、自由な発想で、何章かに分けてつくり上げたい。
役所さんについては、いろいろな作品で拝見しています。自分というものがありながら、作品や環境によって全く異なるキャラクターを演じ分けることができる俳優だと思っています。私は好きではない俳優とは仕事ができないのですが(笑)、役所さんは、本当に最初から好きになりました。悪い役を演じている時でもすごく良いなと思っていたので、なぜ、私はこれほどまでに役所さんのことが好きなのか?ということを知るためにも、ぜひ今回、一緒に仕事をしたいと思っています。」
役所広司氏コメント
「この場に立たせていただいて幸せです。柳井さんの発想から生まれた、『TOKYO TOILET』を舞台にヴェンダース監督が作品を手掛けるという・・・、この作品への出演を断る俳優はいないのではないかと思います。ヴェンダース監督の作品に参加できるということで、俳優になって40年、この業界にしがみついてよかったと思えるくらい、本当に素晴らしいご褒美だと思います。今回の作品では監督に嫌われないように頑張りたいです(笑)」「今回の映画の物語は、トイレという場所を舞台に365日、1日3回清掃する男性清掃員の物語とのこと。とても美しい物語になりそうな気がしました。この作品を通して、日本という国を世界に紹介していきたい。」
柳井康治氏コメント:
「日本や東京を見続けている監督ですし、今の東京、渋谷をどういう風に感じられて、どのように撮られるのか関心があります。そこに役所さんが加わるということで、期待しかないです。作品で描かれるのが、できれば最高の渋谷、最高の東京であったらいいなと思います。」
プロジェクトステートメント(前半部分を抜粋):
いいことがあったひとも、
そうでもないひとも
何かから逃げているひとも、
何かを探しているひとも
恋をしたひとも、
狂気に支配されそうなひとも
酔っているひとも、
眠くてたまらないひとも
みんなトイレにいく。トイレとは、
人間はみな同じなのだと気がつかせてくれる。
そういう場所なのかもしれない。壁をこえるアイデアを
思いついたことがある。
誰かを傷つけてしまうかもしれない言葉を
送るのをやめたことがある。ひとりになることが難しい今
私たちは少し急ぎすぎている。
トイレがくれるその小さな時間が
ときどきそう言っている気がする。
映画の撮影は2022年内に終了し、作品公開は2023年を予定しています。
日本財団「THE TOKYO TOILET」特設サイト
https://tokyotoilet.jp/
※2023年5月28日続報:第76回カンヌ国際映画祭で役所広司が本作(Perfect Days / パーフェクト・デイズ)で男優賞受賞
Festival International du Film de Cannes Website
https://www.festival-cannes.com/
受賞者一覧
https://www.festival-cannes.com/presse/communiques/le-palmares-du-76e-festival-de-cannes/