東京・乃木坂にあるTOTOギャラリー・間にて、建築家の大西麻貴(おおにし まき)氏と百田有希(ひゃくだ ゆうき)氏による建築ユニット・o+h(オープラスエイチ)の展覧会「大西麻貴+百田有希 / o+h展:⽣きた全体――A Living Whole」が開催されています。
昨年にイタリアで開催された「第18回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展」では、大西氏がキュレーター、百田氏が副キュレーターを務め、キュレーションチームとともに「愛される建築を目指して –建築を生き物として捉える」をテーマとして掲げた日本館での展示を担当。また、2022年3月末にY-GSA(: Yokohama Graduate School of Architecture|横浜国立大学大学院 / 建築都市スクール)を退官した妹島和世氏の後任として、大西麻貴氏がプロフェッサーアーキテクト(教授)に就任し、話題となりました。
第18回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展 開幕、建築家の大西麻貴がキュレーター、百田有希が副キュレーターを務める日本館の展示テーマは「愛される建築を目指して」
『TECTURE MAG』では、9月3日に行われたプレス内覧会を取材(晴天時の追加撮影あり)。会場写真を中心に本展覧会をレポートします。
o+h プロフィール
大西麻貴
1983年生まれ。2006年京都大学卒業。2008年東京大学大学院修士課程修了。2008年より大西麻貴+百田有希 / o+hを共同主宰。2016年より京都大学非常勤講師、2022年より横浜国立大学大学院Y-GSA教授。百田有希
1982年生まれ。2006年京都大学卒業。2008年同大学大学院修士課程修了。2008年より大西麻貴+百田有希 / o+hを共同主宰。2009~14年伊東豊雄建築設計事務所勤務。2017年より横浜国立大学非常勤講師。o+hとしての主な作品に、シェルターインクルーシブプレイス コパル(山形県、2022年)、Good Job! Center KASHIBA(奈良県、2016年)、二重螺旋の家(東京都、2011年)などがある。
主な受賞に、2023年日本建築学会賞(作品)、日本建設業連合会が選出するBCS賞などがある。o+h Website
https://www.onishihyakuda.com/インスタグラム
https://www.instagram.com/onishi_hyakuda_architects/
生きた全体—A Living Whole
ひとつの建築をつくる時、
その建築を含む「生きた全体」をどのように考えられるでしょうか。営みの全体
建築をつくるという営みは、私たちが生きることそのものです。その場所にふさわしい建築を、人々とともに掘り起こし、考え、つくり、育てていく。私たちは、そうした営みをも含めた全体を、建築だと捉えています。空間的全体
建築をつくると、その内側にひとつの世界が生まれます。一方で、 建築はその外側の世界にとっての一部分です。 もしも建築が、 内側と外側の世界をつなぐ存在となりえるならば、小さな居場所から大きな環境までを連続的に捉えることができます。建築をつくるとは、スケールを横断して、単体では取り出せないひとつながりの関係性を生み出すことです。時間的全体
建築は、今 目の前にあるものとしてだけではなく、過去、そして未来の建築とともに存在しています。それゆえに、ひとつの建築の中には過去と未来の人々の生が含まれます。建築の材料ひとつにもまた、土地の一部として育まれてきた長い時間が内包されています。そのように、過去、現在、そして未来の人々、さらにはその土地の時間とつながる建築を、私たちは今、どのようにつくることができるでしょうか。存在のかけがえのなさ
建築を含む「生きた全体」を考える時、私たちは、建築を自然から離れた人工物というよりは、生き物として捉えるところから始めてみたいと思います。人間にコントロールされるものとしてではなく、自立した存在として建築と向き合うことで、その存在を機能や性能で測ることを超え、欠点や未完成な部分も含めて愛しみ、育てていくことができます。建築を生き物と捉える視点は、建築の存在論的意味を 問い直す試みです。ひとつの建築をつくる時、その建築を含む「生きた全体」をどのように考えられるでしょうか。その問いを、多くの人々とともに、考え続けていきたいと思います。
大西麻貴 百田有希 / o+h
本展のテーマについて、TOTOギャラリー・間の代表を務める筏 久美子氏は、次のように語っています(プレス内覧会 冒頭挨拶より)
「本展にあわせてTOTO出版より刊行された書籍のタイトルにもなっていますが、これまでo+hの2人が目指してきた”愛される建築”とはいったいどのようなものなのか、掘り下げて伝えられるような展覧会にしたいと伝えたところ、”⽣きた全体”というテーマを考え出してくれました(詩人のT.S.エリオットのテキストより引用したもの、詳細は後述)。
書籍『愛される建築を目指して』の巻頭では、大西氏が〈愛される建築を目指して〉、百田氏が〈「生きた全体」としての建築〉と題したエッセイをそれぞれ執筆しています。建築家としての理論を互いに持ちながら、両者は深く結びつき、つくりだされたものが全体像となって本展で表現されています。2人の理念が、さまざまな言葉となり、言葉にならないようなものはかたちとなって、会場のあちらこちらに散りばめられています。2008年に都内に事務所を構えて以来、どれほどのものが培われ、多くの人々と出会い、さまざまなところでいろいろな関係性を築きながら拡がっていった、o+hの活動の軌跡とともに、今まさに”生きていること”を感じてもらえるような展覧会になったと思っています。」(筏氏 談)
「私たちがふだん建築を考えるとき、1つの建物として考えるのはもちろんのこと、訪れてたその土地をどう愛しながらリサーチを行っていくのか、誰と、どんな会話をしながらつくっていくかということを常に考えています。建築が完成した後も、土地のみなさんに愛されて、どのように育ててもらえていけるのかも含めて、建築を1つのきっかけとして、全体を考えたい。私たちはそれを”生きた全体”と呼んでいます。」(大西氏談)
「建築というものが、その内側にある秩序をもった空間をつくることであるとするならば、それはもう全体であると言えるし、同時に、建築が内と外の世界をつなぐような存在になれるとするならば、小さな居場所から大きな環境までをつなげていけるような、そういった”生きた全体”をつくることができないかと考えています。例えば、家具をデザインするときには、その外側にある部屋のことを考えないといけない。家を設計するときには建築を、建築を考えるときにはまちのことを、まちを考えるときには自然環境を、といったように、部分が、より大きなものへと訴求していくような、小さなものから大きなものへと関係を連鎖させていけるようなものにしたい。そういった私たちの考え方が伝わるような展示構成としています。」(百田氏談)
3Fと4Fで会場の雰囲気をガラリと変えた狙いについて、大西氏と百田氏は次のように説明しています。
「建築をつくるとき、理性的なエンジニアリングと感性的な表現、相反するその2つが必要だという態度を僕らは大切にしています。今回のギャラ間での展示では、3Fと4Fにフロアが分かれている会場をどのようにつなげて構成するのかが1つのポイントになってきます。3Fは、明るく、全体的に中庭へ向かって風が流れていくように連続した空間構成として、4Fでは逆に暗く、吊り下げる布も当初に考えていたオーガンジーから厚みのある生地にして、外からどんどんと中へ、奥へ奥へと入っていくような、洞窟のような空間デザインにしました。対比的な2つの空間で1つの全体をつくっていく、それが今回の展覧会「⽣きた全体——A Living Whole」で、我々が取り組んだテーマの1つとなっています。」(『TECTURE MAG』の質疑に対する、大西・百田両氏の回答を要約)
主催者メッセージより
TOTOギャラリー・間では、公共建築から住宅、福祉施設まで幅広く手がけ、2023年に日本建築学会賞(作品部門)、同年のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展における日本館キュレーションなど、常に注目を集め続ける若手建築家の展覧会「大西麻貴+百田有希 / o+h展:⽣きた全体――A Living Whole」を開催します。
米国出身で英国を代表する詩人のT.S.エリオット(Thomas Stearns Eliot|トーマス・スターンズ・エリオット、1888-1965年)は、「今までに書かれたあらゆる詩の生きた全体(a living whole)」が詩の概念であるという考えを提示し、現在は過去によって導かれながらも、新しい詩が挿入されることによって、過去は変化し、新しい複合体となり、そこに伝統が成立すると説きました。[*]
大西と百田は、建築をつくることは、その建築を含む「生きた全体」を考えることだと言います。
彼らが建築をつくるとき、多様な背景や特性をもつ利用者や地域の人々の声、その土地に伝わる物語にまで耳を傾け、人の営みを丁寧に拾い上げながら建築に翻訳してきました。2023年に日本建築学会賞(作品)を受賞した児童遊戯施設「シェルターインクルーシブプレイス コパル」(山形市)では、スロープが車椅子を含むすべての人の動線でありながら、同時に子どもたちの遊び場でもあるように、一部分だけを取り出すことができない複雑な総体を生み出しています。
個々の価値観や機能を出発点に、それらが折り重なり合うことによって誰もが自分の居場所を見つけることができるように、「生きた全体」を考えることとは、各存在のかけがえのなさを大切にし、寛容で多様な社会の理想形を、建築を通して示そうとしていると言い換えられるのではないでしょうか。展覧会では、彼らの作品や人の営みが織りなす「生きた全体」がどう建築の風景として立ち上がってくるのか、模型や言葉、インスタレーション等で紹介します。本展を通じて、o+hの眼差しと世界観を体感いただければ幸いです。
TOTOギャラリー・間
*.出典:T.S.エリオット著、矢本貞幹訳『文芸批評論』岩波書店(1938年)
#TOTOギャラリー・間 YouTubeチャンネル:「大西麻貴+百田有希 / o+h展:⽣きた全体――A Living Whole 展覧会ガイド」(2024/09/30)
タイトル英語表記:onishimaki+hyakudayuki / o+h: A Living Whole
会期:2024年9月4日(水)~11月24日(日)
開館時間:11:00-18:00
休館日:月曜(会期中の祝日を含む)
入場料:無料
会場:TOTOギャラリー・間
所在地:東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F(Google Map)
電話番号:03-3402-1010
主催:TOTOギャラリー・間
企画:TOTOギャラリー・間運営委員会(特別顧問:安藤忠雄、委員:貝島桃代、平田晃久、セン・クアン、田根 剛)
後援:一般社団法人東京建築士会、一般社団法人東京都建築士事務所協会、公益社団法人日本建築家協会関東甲信越支部、一般社団法人日本建築学会関東支部
大西麻貴+百田有希 / o+h講演会
テーマ:「⽣きた全体――A Living Whole」
日時:2024年9月27日(金)※終了しています
会場:イイノホール
ガイドツアー
※本展会期中、館長ツアー・ディレクターツアー・スタッフツアーを不定期で開催(日時など詳細はTOTOギャラリー・間 ウェブサイトを参照)
TOTOギャラリー・間 ウェブサイト
https://jp.toto.com/gallerma
Photographs by Jun Kato & Naoko Endo / TEAM TECTURE MAG
texted by Naoko Endo