近年「サウナブーム」と呼べるほど、サウナ人気が高まっている。
サウナ愛好家の数が増えるに従い、サウナの楽しみ方も多様化。日本国内で定着した従来のサウナのイメージにとらわれない施設も、次々と生まれている。
そうした中で、12月にオープンした〈ソロサウナtune(チューン)〉は、サウナ界と空間デザイン界に大きな一石を投じるものだ。
綿密な空間デザイン、充実した設備機器、豊かなバリエーション。
すべてが、利用者が自分なりの“ととのい”(※)を得るために考えられ、整備されているのである。
オープン前の体験付きプレスビューから見えた、“ととのい”のための空間デザイン要素をお届けする。
※ ととのい / ととのう:サウナ室→冷水によるクールダウン→休憩を繰り返すことで得られる、多幸感やリラックス感を表す言葉。タナカカツキ氏の著作『サ道』で広く知られるようになった表現とされる。
(Photo: 特記をのぞき、TECTURE MAG_jk)
■プライベート空間に徹した空間デザイン
〈ソロサウナtune〉は「UNPLAN Kagurazaka」1階に入る
場所は、東京・神楽坂にあるホステル「UNPLAN(アンプラン)Kagurazaka」。
カフェのある1階の左手奥スペースがサウナ施設に改修され、完全個室のソロサウナ(1名用)が3部屋、グループサウナ(1〜3名用)1部屋が用意されている。
完全個室のソロサウナ(1名用)は3部屋が続く
体験したのは、1名用のソロサウナ。1人用の着替え・サウナ室・冷水によるクールダウン・休憩のリラクゼーションのスペースがセットになっている。
〈ソロサウナtune〉取締役の河瀬大介氏は「サウナの一連の流れをコンパクトにまとめたプライベート空間は、これまでに国内ではなかった」と語る。
「サウナ事業は、まったく初めて。ただ、経営陣に共通しているのは、サウナ好きであること」という。サウナの監修には「サウナ師匠」という異名をもつ、秋山大輔氏を迎えた。
設計・店舗デザインは、AHA 浜田晶則建築設計事務所を主宰する浜田晶則氏(建築家・teamLab Architectsパートナー)によるもの。
河瀬氏は「浜田さんとはソロサウナのコンセプトをしっかりと話し合いながら、一緒につくっていった」と語る。
「1人きりで自分と向き合うソロサウナは、メディテーション的な要素が強くあります。余計な情報が入らずに、自分の時間に集中できるデザインにしていただいた」と河瀬氏。
利用者の気を紛らわすことがないよう、色彩や照明が綿密に計画されていることが特徴だ。
ソロサウナのサウナ室内部。色彩計画や照明計画、造作が綿密にされている
壁や天井面は、ダークグレーの落ち着いたカラーリングに統一。
控えめな明かりは、間接照明によるもの。ランプの光源が視界に入らず、光は塗り仕上げの壁を伝って空間全体を柔らかく照らす。
サウナ室の腰壁や床、ベンチ、また扉の取っ手など身体に触れる部分には、熱が伝わりにくく肌に優しい木材が使われている。
■“ととのい”へと誘う、抜かりない設備機器
ソロサウナの個室に入ると、着替えスペースの壁面には小さなカウンターテーブルが設えられており、ドライヤーや鏡などがセットされている。
そして、ブルートゥース(Bluetooth®)スピーカーが備わり、室内では自分の好きな音楽を流すことができる。
脱衣スペースの壁面には鏡のほか、小物置きやブルートゥース機器、ドライヤーなどがセットされたカウンターが設置されている
いざ、サウナ室へ。出入り口と反対側の奥には、サウナの本場・フィンランドから輸入したサウナストーブを設置。ストーブ内には、サウナストーンが敷き詰められている。
サウナ室の奥にサウナストーブが設置され、アロマ水の入った水桶が添えられている
サウナストーブの手前には、白樺の香りがするアロマ水が用意されている。フィンランドサウナは、湿度が高めで温度が低めであることが特徴。
ここでは、熱く焼けたサウナストーンの上に水をかけて蒸気を発生させ、体感温度を上げる「セルフロウリュ」が体験できる。
柄杓(ひしゃく)ですくった水をかけると、ジュワーッという音と共に、蒸気と香りが立ちのぼり、サウナ室に満ちる。
頭に熱を強く感じ、「水をかけすぎた…」と思ったものの、木のベンチに寝そべればいいと思いつく。
ベンチの全長は2メートル、奥行きは60cm。ゆとりがあって、ゆったりとくつろげる。頭の部分には、緩やかなカーブをした木製の枕が置かれている。
ベンチに寝そべるときに使える木製の枕。手前にあるのは利用者がセットできるタイマー
全身で熱を体感した後は、いったんサウナ室を出て隣接するシャワーブースに。冷水によるクールダウンは、ここでは水風呂ではなくシャワーで行う。
頭上には口径400mmのオーバーヘッドシャワーが設置され、チラー(冷却器)によって10〜15℃を保った冷水が、ドバーッと大量に降り注ぐ。ヘビーなサウナーにとっても、納得の設備だろう。
シャワーブースの頭上には冷水が降り注ぐオーバーヘッドシャワーを設置。ミスト水流に対応した手持ちのシャワーヘッドも備える。床は木製のスノコ張り
身体の火照りが引いた後は、軽く水分をタオルで拭いて、休憩スペースに。クールダウンの後の休憩は“ととのい”のために、必要不可欠なサイクルの1つである。
休憩スペースの照明も間接光による。脱衣スペースとはカーテンで仕切られる
アームチェアに、深く腰掛ける。その頭上には送風機が設置されていて、微風がそよそよと肌に届いてくる。
送風機にはスイングのほか風量の強弱が付けられる機能があり、外気浴をするような体験が得られる、というわけだ。
休憩スペースの壁面上部に取り付けられた送風機。天井面にはスピーカーも設置
■多様性に応じる豊かなバリエーション
サウナ室→冷水シャワー→休憩のサイクルを繰り返すこと、3回。
3度目の休憩時に、じわっと“ととのう”感覚が得られたところで60分の所要時間が迫り、後ろ髪を引かれながらソロサウナを後にする。
ボトルのミネラルウォーターが有料で用意されているほか、髪を乾燥から守るサウナハットの貸し出しは無料
1人で過ごすソロサウナは、正直に言って抜群であった。一般的なサウナ施設でありがちなテレビの音や映像、他人の挙動や会話に、不快な思いをせずにすむ。密集しにくいということも、コロナ禍の今では重要なポイントである。
また自分のペースで、サイクル内の各パートを過ごす時間やサウナ室の温湿度を調節できることは、予想以上に快適であった。ストレスフリーで思う存分、1人時間を楽しむことができた。
自分の波長を整えるという意味で、施設名となっている「tune」、チューニングという言葉がまさに当てはまることを思い知る。
ソロサウナ体験で1人の世界に浸る(Image provided by tune)
そして、ソロサウナの空間デザインは、サイズ感や見た目のほかに、光、触感、温湿度、熱、空気の流れ、香り、音、そして時間など、目に見えない領域すべてを扱う「体験のデザイン」であることが実感できた。
河瀬氏は「ソロサウナという形態は新しいフォーマットで、設備投資が多くかかります。事業的な目線でバランスを考えてはいますが、なによりソロというニーズの高まりを受けて、私たちは今回トライしたのです」と熱く語る。
ここでは、ソロサウナのほか、同性と3名までのグループで一緒に入れるサウナ室もある。さらに、女性の利用者向けに、パウダールームを別室に設けている。
最大で3名まで一緒に入れるグループルーム(Image provided by tune)
「不特定多数の人々と同じ空間にいるのが苦手な人、サウナのハードルが高いと感じている女性、体的なコンプレックスやハンディキャップがある方など、さまざまな人にサウナを手軽に楽しんでいただければと思います」と河瀬氏は語る。
同社では今後サウナを軸として、「ソロサウナtune」のほか、オフィスに個室サウナを導入する「オフィスサウナtune」、家族や友人と楽しめる貸切に特化した「プライベートサウナtune」、”ととのい”の効果を数値化することができる「サウナアプリtune」のプロジェクトを開始するという。
これからのサウナの姿を見せてくれた〈ソロサウナtune〉。さらなる展開にも、期待が高まる施設であった。
(jk)
施設概要『TECTURE MAG』(2020/09/30掲載)
https://mag.tecture.jp/culture/20200930-14477/
〈ソロサウナtune〉
所在地:東京都新宿区天神町23-1 UNPLAN Kagurazaka1階(Google Map)
営業時間:9:45-23:00(水曜日のみ8:30-23:00)
休館日:不定休
料金:シングルルーム(1名利用)60分=3,800円、グループルーム(最大3名利用)70分=11,400円
(2021年1月31日まで[予定]はオープン記念期間としてシングルルームが3,300円、グループルームが9,900円)
※インターネットによる完全予約制(予約開始は14日前の午前11時から)〈ソロサウナtune〉公式サイト
https://www.solosauna-tune.com