東京・乃木坂にあるTOTOギャラリー・間にて、展覧会「新しい建築の当事者たち」が7月24日より開催されています。
本展は、現在、大阪にて開催中の「2025年日本国際博覧会(EXPO 2025 大阪・関西万博、以下「万博」と一部で略)」において、会場のトイレ・休憩所・展示施設・ギャラリー・ポップアップステージ・サテライトスタジオの設計者として、3年前にプロポーザルで選出された20組の建築家によるグループ展です。
20施設のイメージパース(2024年5月30日発表)

「新しい建築の当事者たち」ポスター ©Jumpei Suzuki
出展者:施設名称 / 作品名
[GROUP]井上 岳、棗田久美子、齋藤直紀、中井由梨、赤塚 健:トイレ1 / 夢洲の庭
[大西麻貴+百田有希 / o+h]大西麻貴、百田有希:休憩所1 / fuku fuku
[KIRI ARCHITECTS]桐 圭佑:ポップアップステージ東内 / 雲の屋根
[工藤浩平建築設計事務所]工藤浩平:休憩所2 / 石のランドスケープ
[KUMA&ELSA]隈 翔平、エルサ・エスコベド:トイレ6 / One Water
[studio m!kke + Yurica Design and Architecture + Studio on_site]小林広美、竹村優里佳、大野 宏:トイレ2 / 地球の形跡
[小俣裕亮建築設計事務所/new building office]小俣裕亮:トイレ3 / Responsive structure
[KOMPAS]小室 舞:展示施設「フューチャーライフビレッジ」
[t e c o]金野千恵:ギャラリー / Gallery Triggering
[斎藤信吾建築設計事務所+Ateliers Mumu Tashiro]斎藤信吾、根本友樹、田代夢々:トイレ8 / 万博のあたらしい「かた」
[axonometric]佐々木 慧:ポップアップステージ北 / 森の途中
[一般社団法人コロガロウ / 佐藤研吾建築設計事務所]佐藤研吾:サテライトスタジオ西 / イカダを作ってどうにか向こう側へ渡り、帰る
[PONDEDGE+farm+VOID]鈴木淳平、村部 塁、溝端友輔:トイレ7 / 島の蜃気楼
[ナノメートルアーキテクチャー]野中あつみ、三谷裕樹:サテライトスタジオ東 / 時木(とき)の積層
[MIDW+Niimori Jamison]服部大祐、新森雄大:休憩所4 / Resting Pavillion in Osaka Expo
[AHA 浜田晶則建築設計事務所]浜田晶則:トイレ4 / 土の峡谷
[萬代基介建築設計事務所]萬代基介:ポップアップステージ東外 / Ring Pavillion 2025
[三井嶺建築設計事務所]三井 嶺:ポップアップステージ西 / 祝祭のための原初
[山田紗子建築設計事務所]山田紗子:休憩所3 / 静けさの森に隣接する休憩所
[米澤隆建築設計事務所]米澤 隆:トイレ5 / 積み木のような建築
※[カッコ内]は事務所名
『TECTURE MAG』では、7月23日に行われたプレスカンファレンスを取材、一部関係者に対して個別取材も行いました。それらをもとに、本展覧会をレポートします(特記なき画像は全て、TEAM TECTURE MAGによる撮影)。
準備期間の社会的背景
建築の”当事者”とは?
本展を読み解き、共有するヒントとなる7つのキーワードとインタビュー映像
GALLERY 2(4階)は議論の場
今後の課題となる社会との「共有」
※要所で、本展監修者の平田晃久氏、会場構成を担当した佐々木 慧氏、実行委員の工藤浩平氏、小俣裕亮氏、桐 圭佑氏のコメントを挿入

GALLERY 1(3階)会場風景
プレスカンファレンスの冒頭、挨拶に立った平田晃久氏(本展監修者)は、2022年のプロポーザル当時を振り返りつつ、本展について次のように語っています。
「20施設の設計者を決めるプロポーザルでは、藤本壮介さん、吉村靖孝さんという同世代の3人で審査(評価委員)を担当しました。我々も50歳を超えて、新しい世代に対してなにかできることはないかと考える年齢となり、審査を引き受けました。
万博と似たような舞台として、オリンピックが挙げられますが、前回の東京大会では、競技場はさておき、そのほかの施設の設計者を決める過程において、当時いわゆる若手だった我々にはほとんど参加の機会が設けられず、とても悔しい思いをしました。時代を遡ると、1970年代に興った世界的なデザイン潮流・メタボリズムは、年長の建築家ないし評論家が、後進の世代を先導して隆盛したという側面があります。そこから新しい機知が生まれ、歴史にも刻まれた。この万博の施設プロポーザルは、藤本さんが若い世代に対し、万博という舞台で設計できる機会を与えたいという思いが発露となって実現したものですが、およそ50年前と同じように、そこからなにか新たな機運が生まれるようにしたいという強い思いが、評価委員3人の共通の意識としてありました。
蓋を開けてみると、ものすごい数の応募があり、建築に対する多様なアプローチがみられました。そこから20の案を選ぶのは、本当に苦渋の決断でした。落選した提案の多くも素晴らしいものでしたし、そもそもプロポーザルに応募しなかった、できなかった人たちにも才能豊かな建築家はもちろんいます。熱量があり、とても層が厚い。そこから厳選して建てられた20の施設を、単に万博の会場だけに存在させるのではなく、彼らの考えていることも含めて、人々の目に触れさせたほうがいいと強く思いました。そうして企画されたのが今回の展覧会です。ぜひ、多くの人々に見ていただきたいです。」(平田晃久氏 談)

「新しい建築の当事者たち」展 プレスカンファレンスで監修者として挨拶する平田晃久氏(マイクを手にした人物。後列の6人は本展実行委員ら、氏名は後述)
本展の企画が立ち上がったのは2年ほど前。万博プロデューサーを務める藤本壮介氏から、TOTOギャラリー・間に「若手建築家たちのチャレンジングな取り組みを紹介し、次世代へと伝えたい」との相談がもちかけられ、今回の企画展開催に至ったとのこと。
藤本氏は、自身の若い頃の体験をもとに、次世代を担う建築家に万博という大きな舞台で建築設計の機会を与えたいと考え、1980年1月1日以降生まれの有資格者を対象に、万博協会の主催で2022年3月に公募型プロポーザルが開始されたことは、建築関係者のあいだではよく知られています。
プロポーザル 実施要項
2025年日本国際博覧会 休憩所他 設計業務:会場内のトイレ、休憩所、ギャラリーなど20施設の設計者をプロポーザルで公募、若手建築家が対象
審査結果は同年8月8日に発表。応募した256の事業者から選ばれた20組による各施設のイメージパースと設計コンセプトが公開されたのは、2024年5月30日のことでした。この間、審査を担当した藤本壮介氏と平田晃久氏を交えたプロデューサー会議でのブラッシュアップが行われています(本展では、この間のデザインの変遷を4階・GALLERY 2にて見ることができる)。
実施設計とあわせ、本展の準備も進められていた2024年は、約400年前の築城・石垣造営には不適とされた巨石(残念石)を採用するトイレに関する報道や、当時の経済産業大臣によるいわゆる「2億円トイレ」発言などがあり、「万博のトイレ」が俄かにクローズアップされました。SNSには賛否の声があふれ、容赦のない批判にさらされた建築家もいます。加えて、建築家の山本理顕氏による批判と主張も繰り返されました(詳細は下記参考リンクを参照)。
参考リンク
ゲンロン主催シンポジウム「万博と建築──なにをなすべきか」
4/11(木)シンポジウム「万博と建築──なにをなすべきか」:ゲスト:藤本壮介、山本理顕|モデレーター:五十嵐太郎、東浩紀|ゲンロンカフェ会場チケット 4/2(火)19時発売
『TECTURE MAG』特集「大阪・関西万博の意義と建築家の役割を五十嵐太郎が語る」
そのようななかで開催された本展。TOTOギャラリー・間(以下、ギャラ間と略)の企画展として(タイトルには「万博」というワードは入っていない)、どのような展覧会となるのか、開催スケジュールが発表されて以降、建築関係者の注目を集めてきました。
「出展する20組は、活動拠点もキャリアも実作品の数も実にさまざま。20組の総意として1つの展覧会にまとめあげるのはとても難しかった。僕ら実行委員をいわばハブとして、展覧会の準備を進めてきました」(実行委員のひとり、工藤浩平氏談)。
ギャラ間、監修者の平田晃久氏、アドバイザーの藤本壮介氏とともに、今回の展覧会では何を伝えたいのか、そのためにはどのような展示にすべきかという議論が重ねられ、できあがったのが、本展となります。

本展開催に向けたディスカッション風景 (撮影:根本友樹)

「新しい建築の当事者たち」プレスカンファレンスに出席者:左から(カッコ内は本展における役割)、藤本壮介(アドバイザー)、平田晃久(監修者)、佐々木 慧(会場構成、出展者)、桐 圭佑(実行委員、出展者)、小俣裕亮(同左)、村部 塁(グラフィック計画、出展者)、國清尚之(実行委員)、工藤浩平(実行委員、出展者)
侃侃諤諤たる議論の末に具現化された本展。導入部の3階のGALLERY 1の展示は、ところ狭しとスタディ模型やサンプルの数々が置かれています。20ある施設ごとに分別されておらず、キャプションが添えられていない展示もあり。「わかりやすさ」よりも「建築家としての表現」に重きが置かれた展示です。会場構成を担当した佐々木 慧氏は「あえてごちゃまぜに、立体的に配置した」と説明しています。
「企画当初から、作品をただ解説するだけの展覧会にはしないという前提が出展者全員の総意としてありました。例えば、スタディ模型を時系列に並べるだけの展示では、建築としての公共性をもちえないのではないか。今の時代において、建築家がどのように主体的に建築に関わろうとしているか、当事者であろうとしているのかという視点で現状を切り取り、時代の空気感のようなものも空間として表現した展覧会にしたいと考えました。」(佐々木 慧氏 談)

GALLERY 1(3階)会場風景

GALLERY 1(3階)会場風景

GALLERY 1(3階)会場風景

GALLERY 1(3階)会場風景

GALLERY 1(3階)会場風景
実際に万博会場を訪れた者でも、どの展示がどのパビリオンに属するものなのか、容易には判断がつきません。「奥や裏まで覗きこまないと見えない展示もある」と佐々木氏がいうGALLERY 1には、合計約150点もの展示物がひしめいています。これらを「読み解く」ことを来場者に求めているのが本展の特徴です。
会場内に深く入り込み、注意深く見ていくと、提案時からの形状の変遷がわかる小さなスタディ模型があったり、逆に、実際の建築とのリンクが難しいモノもあります。これらを読解したうえで、上階のGALLERY 2にて会期中に行われるトークイベントの場で、同世代の建築家や建築を志す学生たち、さらには建築領域外の人々も交えて、新しく生まれ出た、あるいはこれから生まれ出る建築の”当事者”として対話を重ね、議論の内容を何らか発信し、社会と共有していきたいというのが、出展者が目指す次なるステップです。

〈ポップアップステージ 東内〉スタディ模型

GALLERY 1(3階)会場風景
出展者たち(今回の万博の当事者たち)の企図を読み解く”ヒント”となりうるのが、展示の見出しのように表示されている、「みんなで自分ごとにする」や「つくった後どうする?」といった7つのキーワードです(後述)。20組の出展者による議論を繰り返すなかで、共通する意識として浮かび上がってきたものから厳選されています。展示什器には、大・中・小の見出しとテキスト、さらに小さなキャプションが添えられています。
さらに、展示什器のなかに埋もれるようにあるモニターでは、この大きなワードに日頃どのような取り組んでいるかなどについて、出展者20組が語ったインタビュー映像や、モックアップなどで検証中の様子が上映され、展示を補完します。

GALLERY 1(3階)会場風景
展示品と展示空間について
GALLERY 1(3階)には、20組の建築家たちそれぞれが「EXPO 2025 大阪・関西万博」のために生み出したコンセプトや実践の過程を表す展示品が並んでいます。合計150程度の展示品が、建築家や建築作品の枠組みを超えて、立体的に入り混じるように配置されています。
この配置は、20組のあいだで重ねられた対話の中からでてきた次の7つのキーワードを軸に、作品どうしの関係性から構成されています。
「つくることを主体的に考える」
「みんなで自分ごとにする」
「五感を引き上げる」
「つくった後どうする?」
「他者を受け入れる、共鳴する」
「素材を見つめなおす」
「遊ぶ、楽しむ」20組それぞれの思考や実践の重なりが織りなす空間を体験することで、「今、建築に関わることとはどういうことか」という問いに対するヒントが浮かび上がって来ると考えています。
GALLERY 2 (4階)には、20組の建築家たちが手がけた「EXPO 2025 大阪・関西万博」の建築のアーカイブ資料と、展覧会期間中のディスカッションの場となる大きなテーブルが設けられています。展示品やキーワードを手がかりにしながら会期中に議論を続け、それに触発されるようにGALLERY 1の展示空間も更新され続けます。
「新しい建築の当事者たち」展実行委員
「今、建築に主体的に関わるということがとても難しくなっていると感じています。例えば、建物のファサードしか担当できなかったり、予め定められた仕様の中で設計しないといけなかったり。本展のために20組のインタビューを収録していくなかで、同じ思いを共有し、また、より主体的に関わろうと、建物の使い手と一緒に建物をつくったり、材料を調達するルートから設計しようとする、失われた主体性の回復を試みる同世代がいることがわかりました。いまの時代において、建築に主体的に関わること、イコール、当事者であることはどういうことなのか? その問いをそのまま展覧会のかたちにしたいと考えました。プロポーザルから竣工まで、この3年間のプロセスを生(なま)のまま伝えようと。本展のタイトルとステートメント、展示構成は、その思いを反映したものとなっています。」(小俣裕亮氏 談)

GALLERY 1(3階)会場風景

外の扉から入って中庭空間に出る導線をとった〈トイレ1〉模型ほか

いわゆる”残念石”が材として使われている〈トイレ2〉

〈ポップアップステージ 北〉スタディ模型ほか

〈トイレ3〉などの展示

GALLERY 1 / 奥:トイレ8、手前:トイレ7の展示

「みんなで自分ごととにする」カテゴリーでの〈トイレ5〉の模型は積み木のように動かすことができる(プレカンにて説明する佐々木氏)

〈トイレ7〉の模型は「五感を引き上げる」カテゴリーでも見られる

〈ポップアップステージ東外〉模型ほか
キャプションには各施設の特徴をとらえて図案化したアイコンが添えられている(グラフィック計画:村部 塁)

コートヤード 見下ろし
4階・GALLERY 2は、前述のとおり、会期中に何度か行われるディスカッションの場として位置付けられています。

GALLERY 2(4階)会場風景
2022年に選出された20の提案は、プロポーザルで審査を担当した藤本壮介氏と平田晃久氏を交えたプロデューサー会議でのブラッシュアップを経て、現在のかたちになっています(2022年8月に審査結果が発表されてから、イメージパースと設計コンセプトの公開まで約2年を要したのはこのブラッシュアップ期間があったため)。
壁の展示は、このプロデューサー会議の資料を公開したもので、20施設ごとにデザインの変遷を確認することができます。

20施設のデザインアーカイブ(一部)注.閲覧可、ただし接写は不可
「この20の施設は、仮設建築でありながら、公共建築でもあります。公共性を維持しつつ、通常の設計ルートではできないようなことにも、法規も含めてチャレンジさせてもらっていて、それが実現できたこと、建築の飛躍の部分も、本展では見てほしいと思っています。万博会場という特異な場所でしたが、もしかしたら、ほかの公共建築でも恒久の実用が認められるかもしれない。建築の可能性を拡げる機会にもなったのではないかと感じています。」(桐 圭佑氏 談)

GALLERY 1のエントランス付近には、20組の出展者それぞれの個人史に、社会情勢や建築業界のトピックスをあわせた年表が展示されている。会場内でみられる20施設のアイコンを含め、グラフィック計画を建築家の村部 塁氏が担当

TOTOギャラリー・間「新しい建築の当事者たち」出展者および関係者(画像提供:TOTOギャラリー・間)
タイトル英語表記:Emerging Architecture, Own Ways
出展者:前述・上記のとおり
会期:2025年7月24日(木)~10月19日(日)
開館時間:11:00-18:00
休館日:月曜・祝日・夏期休業期間(8月11日[月]~8月18日[月])
入場料:無料
会場:TOTOギャラリー・間
所在地:東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F(Google Map)
電話番号:03-3402-1010
主催:TOTOギャラリー・間
企画:TOTOギャラリー・間運営委員会(特別顧問:安藤忠雄、委員:貝島桃代、平田晃久、セン・クアン、田根 剛)
監修:平田晃久
アドバイザー:藤本壮介
実行委員:工藤浩平、小俣裕亮、桐 圭佑、國清尚之
会場構成:佐々木 慧
グラフィックデザイン:村田 塁
後援:一般社団法人東京建築士会、一般社団法人東京都建築士事務所協会、公益社団法人日本建築家協会関東甲信越支部、一般社団法人日本建築学会関東支部、公益社団法人日本建築士会連合会
協力:藤本壮介建築設計事務所
本展詳細
https://jp.toto.com/gallerma/ex250724/index.htm
会期中に「プレゼンテーションイベント」「ディスカッションイベント」「ファミリーイベント」あり(詳細は下記ウェブサイトを参照)
TOTOギャラリー・間 ウェブサイト
https://jp.toto.com/gallerma
『TECTURE MAG』では、大阪・関西万博プレスデーにて現地を取材。各種レポートをはじめ、本展で紹介される各施設についても設計コンセプトや竣工写真などで詳しく紹介しています。詳細は特集「EXPO2025 -建築からみた万博-」にて。