FEATURE
Report: Media Ambition Tokyo 2021 [MAT]
最先端のテクノロジーカルチャーを実験的なアプローチで都市実装するリアル・ショーケース「Media Ambition Tokyo 2021」内覧会レポート
FEATURE2021.05.16

リアル・ショーケース「Media Ambition Tokyo 2021」内覧会レポート

最先端のテクノロジーカルチャーを実験的なアプローチで都市実装するリアル・ショーケース

開催9回目となるテクノロジー&アートの祭典

未来を創造する技術とアイデアが結合する、都市を舞台にしたテクノロジー&アートの祭典「Media Ambition Tokyo 2021(:MAT / メディアアンビショントウキョウ 2021)」が、東京・六本木の六本木ヒルズ森タワー52階の東京スカイビューをメイン会場に、代官山と静岡・熱海の各会場で始まっています[*1]
*1.六本木会場は4月27日から5月23日まで開催されるところ、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大防止を目的とする緊急事態宣言発令に伴い、スケジュールが変更となっている(今後さらに変更となる可能性あり)

「MAT」は、最先端のテクノロジーカルチャーを実験的なアプローチで都市実装するリアル・ショーケース。世界で活躍するアーティスト、さまざまな分野のイノベーターや企業とともに、進化し続けるテクノロジーが、アートによってつながり、拡大し、増殖していくことを包括する、テクノロジー・アートの祭典を目指しています。

会場の設営がほぼ終了した開幕前に、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)予防対策を行ったうえで、六本木会場にてプレス内覧会が開催されました。【TECTURE MAG】ではこれを取材。作品のオフィシャル画像も含めて、会場の様子をレポートします(作家クレジットおよび作品コンセプトの詳細は、公式ウェブサイトを参照してください)

「MAT2021」会場エントランス(六本木ヒルズ森タワー52階 東京シティビューの入場券要)

運営はノンキュレーション

プレス内覧会の冒頭、MATを創設した谷川じゅんじとパノラマティクス[*2]を主宰する齋藤精一の両氏が挨拶に立ち、今回で9回目となる「MAT」の開催趣旨と、今日に至る経緯を説明しました。

それによると、MATは、チームラボやライゾマティクス[*2]が今日のように広く知られる前から、メディアアートの作家たちの作品発表の場として機能してきたとのこと。
*2.2021年1月末に改組あり(詳細は本稿下部の関連記事を参照)


# Media Ambition Tokyo YouTube公式チャンネル「MEDIA AMBITION TOKYO 2020 teaser」(2020/02/15)

「MAT」では、初回から一貫して、ノンキュレーションで運営されているのが大きな特徴で、開催の都度で、作家のあいだでの評判などから判断して出展の声がけをしてきたとのこと。
やがて、年を重ねるごとに、それまで出展作家のスタッフとして参加していた若者が独り立ちして出展するなど、谷川氏曰く「生態系のようになってきている」とのこと。齋藤氏も同様に、「いろんなジャンルの人が出会い、交わる場としてかたちになってきた。人と人とのつながりが生まれ、1つのプラットフォームを形成している」と述べました。

作品について説明する水口哲也氏

メディアアートのプラットフォーム

今年の出展者は、昨年開催された本展に先駆けて開催された「NEWVIEW AWARDS 2020」(審査委員長:宇川直宏)にて高校生で入賞を果たしたMayuka Otsukiをはじめ、小野澤 峻、会田寅次郎といった、次世代のテックアートシーンを担う10-20代のアーティストが台頭してきているのが大きな特徴です。

加えて、日本を代表するメディアアーティストの1人で、アートと研究開発の両輪から日本の未来を提言する落合陽一(1987-)、リアルとバーチャルを横断する新しい体験を創造し続ける水口哲也(1965-)、西武百貨店池袋本店やユニクロ新宿店のデジタルサイネージなどでも知られるインターフェースデザイナーの中村勇吾(1970-)、慶應義塾大学環境情報学部教授の脇田 玲(1974-)、新たな聴覚体験を創出するサウンドアーティスト・evalaを迎えた、旧ライゾマティクス出身のメンバーで構成されるシナスタジアラボなど、MATの常連作家も作品を披露。最先端のアートや映像、音楽、パフォーマンス、トークショーなどを開催、リアルとオンラインを組み合わせたハイブリッドな展覧会となっています。

参加アーティスト(六本木会場、順不同):落合陽⼀、水口哲也、脇田 玲、⻄條鉄太郎、シナスタジアラボ feat. evala、市原えつこ×渡井大己、MES、中村勇吾、南澤孝太、⼩野澤 峻、Harry Krekoukiotis、Danny Hynds、笠原俊⼀×Kezzardrix×⽐嘉 了、Mayuka Otsuki、板坂 諭、会田寅次郎、OPEN MEALS、ほか

サテライト会場(後述):WOW、ハコスコ、三原良太、藤井直敬、中谷健一

シナスタジアラボ feat. evala(See by Your Ears) 「シナスタジアX1 - 2.44 波象(Hazo)」

作家は、共感覚(シナスタジア / Synesthesia)や感覚複合体験の実験、研究、アーキテクチャーを追求するために設⽴された、アライアンス(Alliance)型のラボ。「MAT2021」では、再びevala(See by Your Ears)を招聘し、新たな共感覚体験空間を提起する。
※利用は、公式サイトより事前登録が必要

市原えつこ×渡井⼤⼰「仮想通貨奉納祭・サーバー神輿」

仮想通貨の奉納に反応する神輿。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大により、日本古来の文化である祭りを自粛せざるを得ない、昨年来からの社会の状況を踏まえて制作されている。
「MAT2021」では、ArtStickerでの投げ銭に作品が反応。モニターの中のバーチャル空間にも影響を及ぼすハイブリッド型神輿のプロトタイプとして実験的に披露される。

MES「meltdown pt.2 "cakeshop"」

「meltdown pt.2 "cakeshop" 」とMESの2人(画面右端)

KANAE(谷川果菜絵)とTAKERU(新井 健)によるアーティスト・デュオ、MESが継続的に⽤いてきたレーザーとワックス、仮設資材によるインスタレーションの新作。レーザー照射によってワックス(ろうそく)が溶け、会期中にメッセージが彫り込まれるライブ型の作品。本作では、誕⽣⽇とある神話について展開する。

中村勇吾×北千住デザイン×JEMAPUR「HUMANITY - AR EXPERIMENTS -」

拡張現実・AR(Augmented Reality)の実験作品。
インターフェースデザイナーの中村氏が、2020年に初めて手がけた、PlayStation 4およびPlayStation VR向けの⼈間集団シミュレーターゲーム「HUMANITY™」の、2021年発売予定の最新版がベースになっている。「MAT2021」の会期中、六本⽊ヒルズ・森タワー前広場「66プラザ」に大勢のヒューマン(人間)を出現させ、専用アプリをダウンロードした端末でのAR体験を提供する。

⻄條鉄太郎 「SOCIAL DISTANCERS -VIRAL INFECTION-」

⼈の動きに合わせ、動的に⽣成されるオーディオ・ビジュアル空間作品。
プロジェクターの映像は、展示空間のフィールドに足を踏み入れた体験者に反応し、正⾯の壁と、体験者の⾜元を含む床⾯に、ウイルスの感染と増殖をモチーフにした映像が投影される。ウイルスが拡散していくイメージを体験できる。

脇⽥ 玲「Holiness」

見えないものを可視化し、表現する、脇⽥ 玲(あきら)氏の作品。
⼈が神聖さを感じるのは、宗教の儀式や様式に対してではなく、「ある種の光の勾配のパターン」に対してではないか、という仮説に基づき、「神聖さ」を感じさせる世界中の建築に着⽬し、光の反射や屈折のパターンの網羅的な収集と再構築を⽬指す、現在進⾏形のプロジェクト。

⼩野澤 峻「演ずる造形」

6つの振り⼦を⽤いた造形作品。ジャグリングを拡張したようなパフォーマンスの終盤、振り⼦は衝突を繰り返しながらも、絡まらずに交差をし続ける。制御することができない現象を、パフォーマンスの⼀部として取り込み、上演する。

なお、昨年の「MAT 2020」に出展した⼩野澤作品「Movement act」も今回展⽰されています。

板坂 諭 × xorium「へのへのもへじ」

防犯カメラに代表される監視社会に対するプライバシーがテーマ。カメラがとらえた人物の顔の上には、歌川広重が新法狂字図句画で描いた「へのへのもへじ」が上書きされる。肖像権とは? 安全・安心のボーダーラインはどこにあるのかを問いかける作品。

落合陽⼀「物化する地平線」

落合陽⼀「物化する地平線」 photo: Yoichi Ochiai 画像提供:MAT

六本⽊ヒルズから⾒える地平線をトランスフォームする。
空と⼤地の境界をなす線に、光やイメージを書き加える。展望台というロケーションから⾒える、観念の境界線上に、計算機と表⽰装を⽤いて「物化する⾃然」を描いていく。

LED光源がライン状に付いたブレードを高速回転させ、光の残像によって映像を映し出す3Dホログラムサイネージ「3D Phantom」を使用した作品(協賛:Life is Style)。
なお、「3D Phantom®︎」を使った作品は、「北九州未来創造芸術祭 ART for SDGs 真のゆたかさのために」にも出展されています(現在はCOVID-19拡大防止のため臨時休館中)

Mayuka Otsuki 「Nether World」

もしVRが、過去の誰かが後世に「体験」を残すことを願った結果として⽣まれたものだとしたら? その願いに触れたときの感情の動きが、作家が本当に作りたい体験とのこと。死後の世界で、誰かの願いを描き出す作品。

「NEWVIEW AWARDS2020」特別賞(MAT賞)受賞作品
https://newview.design/works/nether-world/

Harry Krekoukiotis × KMD Embodied Media & Panasonic AugLab「Spatial Animacy」

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)で建築を修めたHarry Krekoukiotisが製作した、折り紙のようなパーテーションは、鑑賞する人の動きに呼応して、⼿折りの折り紙面が動く。建築空間上における、運動感覚を通じた共感や、主観的有⽣性を探求した、インタラクティブなキネティックインスタレーション。ハイテック×スロークラフトという哲学をもとに、手折りの折り紙面のアクチュエーター制御により、有⽣性を具現化する。

Danny Hynds × KMD Embodied Media & Geist「Sonitecture: Module 1」

発汗など、⼈体の反応や感情の推移を測定・解析し、光と影、⾳や振動と共に、浮遊するデジタル⽣物に反映するインスタレーション。来場者は、⾃分と⾝体とマインド、空間とのつながりをこの作品を通して再発⾒する。発汗など、⼈体の反応や感情の推移を測定・解析し、光と影、⾳や振動と共に、浮遊するデジタル⽣物に反映するインスタレーション。来場者は、⾃分と⾝体とマインド、空間とのつながりをこの作品を通して再発⾒する。

笠原俊⼀×Kezzardrix×⽐嘉 了「Fragment Shadow」

映像投影空間に鑑賞者の⾝体が⼊ることで、影が⽣まれる。鑑賞者の影は予期せず分断され、⾊彩を伴ったグラフィックとして再構成される。影という最も基本的な⾃⼰を投射する存在を異質化することで、変容した⾃⼰投射と⾃⼰の相互作⽤を可能にする、”インタラクティブ”な作品。

笠原俊⼀ / Superception プロジェクト「Morphing Identity」

証明写真撮影機のようなボックスが向かい合わせ配置され、内部では、⾃分だった顔が、いつの間にか他者の顔に変容していくさまを体験できる。映像を介したコミュニケーションにおいて、個⼈を識別するための顔映像が持つアイデンティティの流動性に着⽬し、⾃分⾃⾝が認識している⾃分と、他者が思う⾃分が、約90秒のあいだにどのように変容し得るかを探索する。

会⽥寅次郎「ero法令検索」

壁のスクリーンに映し出されているのは、政府のウェブサイト「e-Gov法令検索」で公開されている、⽇本の全ての法令の⽂章。この上に、さまざまな挿絵、⾊、絵⽂字が描き⾜される。床面のコントローラーを足で操作して、ネット上に漂うような感覚を体験できる。

OPEN MEALS「サイバー和菓⼦」

茶室を模したモックアップに置かれているボックスは、3Dプリンタを内蔵している。独⾃のアルゴリズムを開発して、気温、湿度、気圧など、その日の気象データをもとに、3Dプリンタで「サイバー和菓⼦」を⽣成。日本の食文化を最新のテクノロジーでアップデートし、提示する。気候変動で失われつつある四季を思索する作品でもある。

オンライン会場もオープン

コロナ禍により、芸術祭のあり方に変革を求められる昨今のプレゼンテーションとして、昨年、試験的導入を試みた「eMAT」を再始動。オンライン会場にて、デジタル体験を拡張します。

公開中のコンテンツ
「テクノロジーと表現の未来」(2021/04/27配信)
出演:落合陽一、猪子寿之(チームラボ)

「アートはどこへ向かうのか」(2021/04/30)
出演:真鍋大度、南條史生

「創るためのAI –人間と機械の協働から生まれる創造性–」(2021/05/01)
出演:徳井直生、田所 淳、脇田 玲

トークの動画はMAT公式YuTubeチャンネルでの限定公開設定。作家へのインタビューをまとめた動画なども今後、公式サイトに随時更新される予定とのこと。いずれも視聴は無料です。

「Media Ambition Tokyo」CONTENTS
https://mediaambitiontokyo.jp/movie/

「Media Ambition Tokyo 2021」イベントスペース(開催は無観客にて)

「Media Ambition Tokyo2021」

会期:2021年5月12日(水)~6月8日(火)[*1]
*1.COVID-19拡大状況により、変更となる場合あり
会場:東京シティビュー(東京都港区六本木6丁目10-1六本木ヒルズ森タワー52階)ほか
開場時間:10:00-20:00(最終入館19:30)
※会場ではCOVID-19予防対策を実施
入場料:東京シティビューへの入館料が必要
主催:一般社団法人Media Ambition Tokyo(JTQ Inc. / Panoramaiks / Mori Building Co., Ltd. / Enhance Experience Inc. / Mistletoe, Inc.)
メディアパートナー:Art Sticker / WIRED JAPAN
Special Cooperation : NEWVIEW AWARD / 3D Phantom

MAT公式ウェブサイト
http://mediaambitiontokyo.jp/

サテライト会場

六本木会場のほかのサテライト会場として、東京・代官⼭に今春開設された「MAT」の常設ギャラリー「Media Ambition Tokyo Gallery 代官⼭」にて、WOWの作品が展示されるほか、静岡・熱海のコミュニケーション実験スペース「ハコスコカフェ」にサテライト会場が設けられます。

さらに、チームラボとの共同ワークショップ「Media Ambition Tokyo チームラボボーダレス オンラインツアー」も開催される予定です(日時未定、詳細はMAT公式ウェブサイトにて発表)。(en)

WOW「wind form」 画像提供:MAT

WOW「wind form」
⾮常に薄く軽い布を⽤い、その特性をそのまま形にした⾵のインスタレーション。
通り沿いのウィンドウディスプレイに5台のサーキュレーターを配置し、個々に制御することで、布が宙を舞い⽴体的な形と動きを形成。⾵が織りなす形と動きは、シンプルで美しく、⾃然現象のような永続性を有し、アニメーションをつくり出す。


サテライト会場

「Media Ambition Tokyo Gallery Daikanyama」
会期:2021年3⽉12⽇(⾦)〜6⽉8⽇(⽕)
開廊時間:8:00-24:00
会場:Media Ambition Tokyo Gallery 代官⼭
所在地:東京都⽬⿊区⻘葉台2-3-1 ⼩杉ビル⻘葉台「Enhance」オフィス1階

ハコスコカフェ[熱海]
アーティストおよび作品
ハコスコ「Remote Reality ー 千里顔」
三原良太「千里耳:ambie 仮想の音が自然に重なる、音のAR」
藤井直敬「デジタル金剛力士隊」
中谷健一「グリッチタヌキ」
会期:2021年5月15日(土)〜23日(日)
開廊時間:12:00-18:00
会場:ハコスコカフェ
所在地:静岡県熱海市伊豆山1173-439(Google Map
入場料:500円
※完全予約制


「Media Ambition Tokyo」公式ウェブサイト
http://mediaambitiontokyo.jp/

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