2020年に創業88周年を迎えた東京・錦糸町の銭湯「黄金湯」が、8月22日にリニューアルオープンした。
リノベーションにあたり、総合プロデュースを担当したのはアーティストの高橋理子氏(HIROCOLEDGE)、設計を担当したのは建築家の長坂 常氏(スキーマ建築計画)である。
リニューアルオープン間もない同施設であるが、すでに熱い注目を広く集めている。
11月11日の“ととのえの日”に発表された「SAUNACHELIN(サウナシュラン) 2020」では、「いま行くべき全国のサウナの上位11施設」の第6位にランクイン。
公衆浴場でのサウナシュラン選出は、今回の〈黄金湯〉が初めてという。
プロサウナーが選ぶ「SAUNACHELIN 2020」発表
https://mag.tecture.jp/culture/20201111-17413/
TECTURE MAGでは、オープン直前に行われたプレスビューを取材。
長坂氏にデザインの意図を、高橋氏にプロジェクトの背景と鍵となる設えを伺った。
高橋理子氏(HIROCOLEDGE)
長坂 常氏(スキーマ建築計画)
Movie & photographs: toha
「お風呂に集まる人を増やすために、テリトリーを広げることを考えた」という長坂氏。
「特に若年層が好んで集まるような場所にするため、サウナやバーを設えた」と語る。
近年若者の間でも人気が高まっているサウナについて、オートロウリュサウナとセルフロウリュサウナの2種類を用意。
洞窟の内部にあるような雰囲気の水風呂は、チラーで16℃に冷やされた水をたたえる。
ボイラーを撤去した後のスペースを利用して、新たに設えられた。
水風呂に隣接して下がった位置にある、外気浴スペース。
「ととのい」には、水風呂とともに、開放的で自然風の当たる外気浴がポイントとなる。
外気浴スペースで見上げると、以前使われていた煙突が天に向かって伸びる。
長坂氏は、既存の銭湯に特有の、男女のエリアを分ける壁の高さに注目。
「2250mmという寸法は低すぎず、高すぎず、ちょうど良い高さです。この高さをきっかけに、男女間でなんとなく想い合う関係をデザインしていきました」と語る。
脱衣所と風呂場の2250mm以下の壁はベージュカラーのタイルで統一し、それより上はコンクリートの仕上げに。
風呂場の壁に取り付けられた1本のステンレスの手すりは、壁の上部を乗り越えて男女間の風呂場をつなぐ。
この棒自体に機能は特にないが、握って揺らすと向こう側でも揺れる。男女間での応答を想起させる装置だ。
エントランスには、クラフトビールなどを提供する「番台バー」を設置。DJブースも備える。
デザインは提灯からインスピレーションを得たものだという。
「待ち合わせをする関係がストーリーとして生まれ、コミュニケーションできるように設計した」と長坂氏は説明する。
アーティストの高橋理子は〈黄金湯〉では総合プロデューサー兼、クリエイティブディレクションを担当。
設計は、高橋氏自身のスタジオも手掛ける、長坂常氏を起用した。
「銭湯という一見するとデザインを必要としない施設に、長坂さんの時代と本質を捉えるフラットな視点を組み合わせることが、ここから始まる新たな銭湯文化の価値を生み出す最良の方法と思ったためです」と理由を説明する。
高橋氏は、ロゴマーク、館内サイン、オリジナルグッズなどのデザインも手掛けている。
そして、先の2250mmを超えるスペースをつなぐ要素についても、長坂氏と協働。
壁の上のコンクリート壁に銭湯絵として描かれた「富士絵巻図」は、漫画『きょうの猫村さん』などで知られる、漫画家・ほしよりこ氏によるもの。
ほし氏に依頼した高橋氏は「男女をつなぐ長い銭湯絵がストーリー仕立てになっていて、お風呂に入った方もじっくり見たくなり、長居したくなってしまうような絵になっていると思います」と語る。
入り口を隔てる暖簾(のれん)は、アーティストの田中偉一郎氏に依頼。
「これも向こう側が気になる、お互いが繋がっているコンセプトを体現するデザインです」という。
なお、黄金湯の人気は、オープン前からクラウドファンディングで話題になっていたことも関係する。
押上の老舗銭湯「大黒湯」の姉妹店として黄金湯を営業する新保朋子氏と卓也氏は、老朽化に伴う「銭湯改修プロジェクト」を始動したものの、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響によって工事が一時休止に。
新保朋子氏(左)と新保卓也氏(右)。ユニフォームのデザインは高橋氏によるもの
「廃業する銭湯が跡を絶たないこの時代に、日本特有の銭湯文化を未来につなぎ、盛り上げていきたい」との想いで、工事休止もあって膨らんだ工事費用をまかなうためにクラウドファンディングを実施。
目標額を300万円に設定したところ、終了時点で1000人を超える支援者から約658万円が集まった。注目の度合いと参加者の熱量が、おおいに感じられる。
魅力的なサウナやビアバー、そして絶妙な高さの界壁や空間をつなぐ銭湯絵や暖簾。
新たな魅力と世界観を備えた黄金湯は、地元の常連客だけでなく、熱烈なファンを新たに生み出し続けている。
ぜひ“未来につながる新しい銭湯文化”を、体感しに訪れていただきたい。
(jk)
■黄金湯
住所:東京都墨田区太平4丁目14−6 金澤マンション 1F
平日・日曜・祝日 : 10:00-24:30
土曜日 : 15:00-24:30
定休日 : 第二・第四月曜日(その他、年末年始休業日などはホームページを確認のこと)
料金:大人 470円、中学生 370円、小学生180円、幼児 80円
公式サイト
https://koganeyu.com/