FEATURE
[Special Report] Kengo Kuma designed a CLT and metal roof cabin
FEATURE2022.06.30

隈研吾が設計した四畳半の小屋〈木庵〉、国立競技場からの会場レポート

341万円で買える隈研吾作品、CLT×板金技術が可能にした極小建築

隈研吾、最大の建築の中で四畳半の「小屋」を披露

東京・千駄ヶ谷駅前の〈国立競技場〉にて、建築家の隈研吾氏が設計を手がけた小屋〈木庵(もくあん)〉の完成披露発表会が、6月21日に開催されました。

〈国立競技場〉南側外観

〈国立競技場〉南側外観

〈木庵〉の企画と製作は、1976年(昭和51)に岡山市で創業、同地に本社を構える植田板金店(代表:植田博幸)。板金(ばんきん)工事で培った技術力をもとに、外装・屋根工事なども行なっている同社が、2017年(平成29)に立ち上げた小屋事業における新製品です。

同社は、展開する小屋事業「小屋やさん」において、同じく隈氏による設計で、ガルバリウム鋼板の屋根と外装を有する小屋〈小屋のワ〉を、室内面積9.9m²(約六畳)で開発、販売しており、これに続く第二弾となります。

隈研吾設計〈小屋のワ〉

「岡山芸術交流2019」のインフォメーションセンターとして使用された〈小屋のワ〉(植田板金店 2019年11月6日プレスリリースより)

隈氏と植田社長らが出席した完成披露会を『TECTURE MAG』では取材。出席者の発言内容とともに、プロダクトについてレポートします。

デザイン監修を含め、隈氏が手がけた建造物の中で、最大規模の〈国立競技場〉を舞台に、これまでで最も小さい建造物となる、広さ四畳半の小屋のお披露目となりました。

Photo by TEAM TECTURE MAG(特記のある写真を除く)
Reported by Naoko Endo

〈木庵(もくあん)〉製品概要

隈研吾×植田板金店 小屋〈木庵〉

〈木庵〉出入口側 外観 / 画像提供:植田板金店

製品名:木庵(読み:もくあん)
企画・製造・販売:植田板金店
設計:隈研吾(隈研吾建築都市設計事務所主宰)
構造:木造(CLTパネル工法)
室内面積:7.2m²(約四畳半)
外寸法(屋根を含む):短辺2,630×長辺5,199×最大高さ3,038mm
内装仕上げ:CLTあらわし
外装:ヒノキ(岡山県美作産)羽目板
屋根:ガルバリウム鋼板 縦ハゼ葺き
本体価格:310万円+消費税
※トラック輸送費・現地施工費は別途

植田板金店〈木庵〉特設ページ
https://koyayasan.com/product-mokuan/

CLTならではの意匠と構造

〈木庵〉は、東京・晴海から岡山・蒜山高原に昨年移築されたパビリオン〈風の葉〉や、今春オープンしたFC町田ゼルビアのクラブハウスなど、隈氏が手がけた近年の建築作品でもみられる、CLT(Cross-Laminated Timber)を用いてデザインされているのが特徴です。

隈研吾×植田板金店 小屋〈木庵〉

式典で〈木庵〉のコンセプトなどを説明する設計者の隈研吾氏(着用のTシャツは非売品のオリジナル)/ 画像提供:植田板金店

「CLTはいま、世界でも最も注目されている材料です。地球の環境問題解決にも寄与できる。建材としては、とても軽くて、薄いのに、強度がある。木を使って、大きな建築をつくることができる。構造材としてはもちろん、意匠にも使えるが最大の魅力です。
今回の〈木庵〉では、内外装で国産の木を使いました。外側は岡山県美作(みまさか)のヒノキを、内装は国産の杉の木を使ったCLTを配し、木がもっている素材の良さ、心地よさを感じられるよう、CLTをそのまま”あらわし”としました。」(隈氏談)

「木庵」の焼印の揮毫は隈氏の手によるもの

「4年前に植田板金店とコラボレーションした1作目〈小屋のワ〉では、木造枠組壁構法と板金の外装という組み合わせでした。次につくるなら、木をそのまま切り出したような、木の塊のような小屋をつくりたいとずっと考えていて、この4年の間に、社会や建築をとりまく環境がいろいろと変わり、今回は、素材としていろんな可能性を秘めているCLTでつくろうと思いました。森をそのままここに持ってきたような、1つのアート空間としても成立し、かつ、価格は300万円台におさえて、車1台を買うのと同じ感覚で、人々がこの小屋を買ってくれて、庭先にでも置いてくれたらいいなと思いながらデザインしました。」(隈氏談)

「〈木庵〉の広さは四畳半。小間(こま)であり広間(ひろま)にもなり、茶室の空間にも通じる、日本家屋におけるスタンダードなサイズが四畳半です。日本人がいちばん居心地の良さを感じられるスケールではないかと思います。窓は、中に入った正面の位置に、立った状態での視界の抜けがある高さで1カ所と、中で正座をしたときに大きな開口を得られる位置にもう1カ所、かなり厳密な構造計算も行なったうえで、2方向、2カ所に設けました。」(隈氏談)

〈木庵〉の奥に座し、長辺側の開口(窓)からの眺め

「世界の隈さんが小屋を設計する。ダメで元々という気持ちでお願いしたところ、隈さんが引き受けてくださった。
記念すべき第1作目の〈小屋のワ〉の披露は、ここから近い神宮外苑の絵画館前で行ないました。それから4年が経ち、国立競技場という舞台で、この〈木庵〉のお披露目ができたことは感慨深いものがあります。

私たちが展開する事業”小屋やさん”で販売する製品は、いずれも10m²以下で、建築基準法の制限を受けない。防火地域にかからなければ、トラックに積んで、どこへでも設置できる。置き基礎と連結させるか、可能であればベタ基礎をうてばよりベターです。」(植田社長談)

CLT製ベンチと〈木庵〉

業界大注目の新建材「CLT」

CLT(Cross-Laminated Timber)は、集成材を構成する挽き板(ラミナ)を、板が繊維方向に直交するように積層し接着した木質系材料(直交集成板)です。特徴として、自然界から採った木材ではほぼ不可能な、大判で厚みある板をつくり出すことが可能なこと、柱不要でも構造材としての強度を有すること、木の節(ふし)があらわれた材の表面をそのまま意匠として使えることなどが挙げられます。

1990年代に、スイスとドイツを中心に開発されたCLTは、ヨーロッパではすでに中高層の建築物で施工実績があります。
日本では、2013年(平成23)にJAS(日本農林規格)の製造規格が定められたのち、国土交通省が建築基準法にかかる諸規定を整備しつつあり、今後はさらなる需要増が見込まれています。

参照元:日本CLT協会「CLTとは」
https://clta.jp/clt/

自身がデザインしたCLT製ベンチでくつろぐ隈氏 / 画像提供:植田板金店

日本では現在、民間を中心に進められているCLTの製造・販売ルートの構築と、国が行うべき法整備が並行して進められているとのこと(隈氏談)。その前途には、日本の林業における慢性的な問題をはじめ、クリアすべきハードルがいくつも横たわっています。

隈研吾×植田板金店 小屋〈木庵〉

CLT製ベンチ(部分)

CLTが日本の林業を救う?

CLTの流通拡大を阻む最大の問題は、価格が高いこと。今回の披露発表会でも隈氏が「最大のネック」と指摘していましたが、CLTの国内流通量が絶体的に少ないことが原因です。

「CLTの価格を下げるには、みんなが使わないといけない。そのために、今回の〈木庵〉のような小さなものがCLTでもできるのだと示すことが大事。」(隈氏談)

今回の〈木庵〉の発表が、国内外から注目と関心を集めることで、一般的な材として浸透していくこと、建築・デザインの可能性を拡張していくことなどが期待されています。

CLTの流通増は、全国的に衰退の傾向にある林業を活性化させるカンフル剤としても期待されています。
建材で使えるような大木を育てるには、枝打ちや間引きなどの定期的な伐採が必要であることは周知のとおり。切った後の再活用の市場がこれまでは限られていましたが、間伐材を原料にできるCLTは、これを打破できると考えられています。

披露式典後に開催されたトークセッションの様子

CLT業界を牽引する岡山県

〈木庵〉完成披露発表会の式典終了後、植田社長が進行役を務め、設計者の隈氏、日本CLT協会代表理事の中島浩一郎(銘建工業 代表取締役社長)、脳科学者の茂木健一郎氏が登壇したトークセッションも開催されました。

銘建工業の代表を務める中島氏は、隈氏が「CLTのことならこちらが一番」と絶大なる信頼をおき、「CLTの聖地」と称した岡山県真庭市に本社を構える製材会社を率いています。

なお、真庭市は、前述のCLTパビリオン〈風の葉〉が移築された地であり、同様に移築された展示棟改め〈真庭市蒜山ミュージアム〉は、隈氏曰く「さかさ茅葺」をイメージしてデザインされた軒の部分に、12×3cmのラミナが大量に用いられています(下の画)。

CLT PARK HARUMI「CLT晴海プロジェクト」

東京・晴海から、岡山県真庭市に移築される前の〈CLT HARUMI PARK〉展示棟(左奥)とパビリオン / 真庭市GREENable記者会見資料より

4氏によるトークセッションの席上、中島氏は、日本ではCLT市場が未成熟であることに言及し、次のように述べました。

「10年ほど前、CLTを用いた高層建築が英国ロンドンにできたと聞き及び、驚いた。ヨーロッパは、長年の石の文化にとどまらず、循環系の木材も使うのだと。
ただ、日本と比べて環境が違う点が大きくあり、建てる側が構造上の検証などを行い、いわば自己責任で建設できる海外に対して、日本では遵法を大前提として、国が間接的に責任をもつ。今後、法整備がさらに進めば、CLT建築の分野で出遅れた日本が、一気に巻き返せるはず。
私たちは、自分たちの手で木造建築の領域を牽引するという気概と勢いで、CLTの普及を進めてきた。CLT市場の拡大は、雇用の拡大に貢献し、森林保全につなげることができると考えている。」(中島氏談)

CLTのさらなる普及に連動した林業の再活性化は、輸入材に比べて高価である日本の国産材の価格を下げ、今いちど競争力を備えるとともに、人の手を入れなければ守れない森林資源を未来へと橋渡しすることにもつながります。

さらには、今後、関連する法規が整備されれば、病院や学校などの中規模施設の建設において、鉄骨造とのハイブリッド構造などにより、CLTが大きく展開できると見込まれており、官需から民需への移行という政策上の利点からも、業界および国からの期待度が高い新建材となっています(式典に出席した石破 茂衆議院議員[自由民主党建築板金業振興議員連盟会長]の祝辞より)。

CLTは、日本の林業と経済を救う橋頭堡(きょうとうほ)となりうるのか? 今後の展開が注視されます。

トークセッションで発言する中島氏(右から2番目の人物)

”小さな地域”から発信する”小さなものづくり”の意義

トークセッションの最後に、今回の〈木庵〉プロジェクトについての感想を求められた隈氏は、次のように述べています。

「今回のプロジェクトでは、東京にはない、地域の力(パワー)というものを強く感じました。岡山という地方の、小さな場所で、四畳半の小屋という小さなモノをつくる。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大というコロナ禍を経た今の時代においては、このようなものづくりがとても大事で、今後の日本はそういう新しい時代を迎えるのではないかと予想しています。」(隈氏談)

隈研吾×植田板金店 小屋〈木庵〉

トークセッション終了後、談笑する植田社長、茂木、隈の3氏

植田板金店〈木庵〉特設ページ
https://koyayasan.com/product-mokuan/

植田板金店〈木庵〉完成レポート vol.1
https://uedabk.co.jp/magazine/391/

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