塚本由晴、千葉 学、セン・クアン、田根 剛の4氏がキュレーターを務める企画展
本展のタイトル「How is Life?」とは、展覧会キュレーターを務めた塚本由晴、千葉 学、セン・クアン(Seng Kuan)、田根 剛の4氏が掲げたテーマであり、私たちへの問いかけである。
東京・乃木坂の会場、とりわけ来場者が最初に目にする3階は、これまでにTOTOギャラリー・間が開催してきた企画展とは異なる印象を受ける。3階には建築模型が見当たらないし、例えるならば民俗学的な要素が強いのだ。
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塚本由晴、千葉 学、セン・クアン、田根 剛の4氏が世界の事例を通して問う、TOTOギャラリー・間 企画展「How is Life?——地球と生きるためのデザイン」
「成長を前提としない繁栄のあり方」を実践しているプロジェクトを展示
会場には、キュレーターの4氏がピックアップした「成長を前提としない繁栄のあり方」を、建築やデザインを介して実践している国内外の事例が紹介されている。広義な「地球と生きるためのデザイン(Designing for our Earth)」の提示だ。
『TECTURE MAG』では、10月20日に開催されたプレス内覧会を取材。キュレーターの4氏による展示説明をもとにレポートする。
コロナ禍を機に建築のありようを見つめ直す
プレス内覧会の冒頭、本展開催の経緯と狙いについて、塚本由晴氏は次のように説明した。
「2020年以降にCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の世界的な拡大があり、建築業界も無関係ではいられなくなった。僕たち建築家も批評される立場にある。今の時代はひとくちにサステナブルと言うが、企業など資本社会の産業的合理性に先導されている。はたしてそのままでいいのか? 建築家ができることとは何か? そのあたりの批評や議論などは今、メディアが元気だった昔と違ってうまく機能しておらず、新しい提案や考え方を押し出していけるのは展覧会という手法が最も適切だろうと、僕たち4人の見解は一致した。
本展の開催にあたり、僕たちは本を読んだり、いろんなリサーチを行った。そうして用意した展示は、茅葺きや藁積み、石積みなど、一見しただけでは不思議に思うようなラインナップかもしれないが、従前の経済活動任せの建築プロジェクトとは一線を画した事例ばかりで、力強さがある。
本展を通じて、何か新しいフレームを見つけられるのではないか。ここから建築を捉え直すような展覧会になればと願っている。」(塚本氏談)
プロローグ動画 10/28より公開中
TOTO ギャラリー・間のYouTubeチャンネルでは、「小さな地球」プロジェクトが実践されている千葉県鴨川市釜沼集落にて収録されたインタビュー動画が公開されている。
#TOTO ギャラリー・間 / TOTO GALLERY・MA YouTube プロローグ「TOTOギャラリー・間 企画展 How is Life? ――地球と生きるためのデザイン」(2022/10/28)
4階 GALLERY 2に「南青山三丁目」の再現模型が登場
4階の展示で目を引くのは、東京・南青山三丁目の交差点を再現した大型模型だ。千葉学建築計画事務所と東京大学千葉学研究室が共同で制作したもので、サイクリストとして知られる千葉氏の真骨頂ともいえる展示。
自転車は、コロナ禍以降は特に通勤・通学など人々の移動手段として注目された。本展で千葉氏は「Bicycle Urbanism」と題して、大きなインフラに頼らない大都市・東京のあり方をデザインし、提案している。
「自転車と都市のまじわり方によって、新しいランドスケープが掲載される」と説く千葉氏。だが、日本は自転車の販売台数こそ自転車大国と呼ばれるオランダなど海外諸国にひけをとらないが、インフラでは大きく劣るという。
例えば、本展で展示されている、スイス・チューリッヒで始まったSNSを使ったサービス「Bikeable」は、市内のサイクリング・インフラストラクチャーの改善に影響力をもつ。サイクリストが街中で見つけた「障害物」の情報が「Bikeable」に投稿されると、市は議論を始めて改善へ向けて動く。市民による”都市の診断”が随時行われ、アップデートされる。単なる「口コミ情報」の蓄積にとどまらないプラットフォームの形成が、人々の手で成されている。
このほか、4階 GALLERY 2では、建築家で都市計画家のヨナ・フリードマン(1923-2020)が提唱した思想や、敗戦から間もない1947年に谷口吉郎氏(1904-1979)が岐阜県内に建設した〈藤村記念堂〉の”普請”に関する資料や、メタボリズム思想に基づいて菊竹清訓(1926-2011)が提案した「東京湾計画」、米国・ニューヨークの埋立地で芸術家のアグネス・デネス(1931-)が2エーカーの土地で小麦を育てた試み「Wheatfield – A Confrontation」などについても展示されている(撮影禁止)。
本展開催の動機は2011年の東日本大震災
東京工業大学坂本一成研究室出身で、2000年より同大学大学院で教鞭を執る塚本氏。個別にインタビューして確認したところ、塚本研究室としては2008年頃から都市と農村の交流に関する研究を行っており、「傍目には、塚本はここ数年、里山に出入りして農業をやり始めたと映るかもしれないが、僕の中ではブレておらず、1つの線でつながっている」とのこと。
ただし、転機となったのは、2011年3月に発生した東日本大震災。復興支援のための建築家のネットワーク「アーキエイド」に参加した際の実経験が、以降の活動と、本展の開催動機の原点となっているという。
「ボランティアとして被災地に赴いて、集落を調べて、人々の暮らしにあった住宅など、かなり丁寧に考えて提案した。だが、最終的に、プレス内覧会の冒頭で触れたような”産業・資本の壁”に阻まれ、実現できなかった。このことから、従来のアプローチを変える必要があると考え、民俗学的な参画、入り込みにシフトし、今に至っている。都市から農村に足を運んで感じるのは、今の社会の経済的なコントロールに縛られない自由さ。障壁などは自分の行動しだいで崩せるものだということ。
鴨川の釜沼集落で継続しているプロジェクトは、建築家として大きなチャレンジだと思っている。」(塚本氏談)
"ものをつくり続ける"展覧会
「会期を通じてものをつくっていくことが、本展のもう1つの主題」と塚本氏。これまでのギャラ間の展覧会では恒例となっていた講演会の開催予定は今のところない。会期中は、出展関係者の協力を得て、茅葺きなど、各種ものづくりのワークショップが月1ペースで計画されている(第1回は、茅葺き職人でくさかんむり代表取締役の相良育弥氏が講師を務め、11月27日に中庭にて茅葺きワークショップを開催)。
東京・乃木坂でのTOTOギャラリー・間 企画展「How is Life?——地球と生きるためのデザイン」は、2023年3月19日まで。
Photo & Reported by Naoko Endo
TOTOギャラリー・間 企画展「How is Life?——地球と生きるためのデザイン」開催概要
キュレーター:塚本由晴、千葉 学、セン・クアン(Seng Kuan)、田根 剛
アシスタントキュレーター:平尾しえな、アナスタシア・ゴリオミティー(東京工業大学大学院塚本由晴研究室)
展示デザイン:アリソン理恵(ARA)、飯田将平+下岡由季(ido)
会期:2022年10月21日(金)~2023年3月19日(日)
開館時間:11:00-18:00
休館日:月曜・祝日(2023年2月11日[土・祝]は開館)・年末年始休業期間(12月26日[月]〜2023年1月9日[月])
入場料:無料
入場方法:予約制(TOTOギャラリー・間ウェブサイトにて受付)
*会場ではCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡⼤防⽌対策を実施
会場:TOTOギャラリー・間
所在地:東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F
問合せ:TEL.03-3402-1010
主催:TOTOギャラリー・間
企画:TOTOギャラリー・間運営委員会(特別顧問:安藤忠雄 / 委員:千葉 学、塚本由晴、セン・クアン、田根 剛)
後援:一般社団法人東京建築士会、一般社団法人東京都建築士事務所協会、公益社団法人日本建築家協会関東甲信越支部、一般社団法人日本建築学会関東支部
TOTOギャラリー・間 ウェブサイト
https://jp.toto.com/gallerma