FEATURE
EXPO 2025 | The Land of NOMO
Panasonic Group Pavilion
Interview with Yuko Nagayama
FEATURE2025.02.21

EXPO 2025 | 永山祐子:パナソニックグループパビリオン「ノモの国」

[Interview]風と光を受けて変容するファサード構造体

パナソニックホールディングスは2月14日に2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のパビリオン「ノモの国」の建築・展示内装工事を完了しました。竣工式の同日に行われたプレス向け体験会に、TECTURE MAGは参加。

パビリオンの建築設計を担当した永山祐子氏による会見コメント、またTECTURE MAGの取材に応じて語っていただいた解説をまとめて、お伝えします。

特記以外の写真:TECTURE MAG

永山祐子 | Yuko Nagayama

永山祐子氏 近影

1975年 東京生まれ。青木淳建築計画事務所を経て、2002年 永山祐子建築設計設立。主な仕事に〈豊島横尾館〉〈ドバイ国際博覧会日本館〉〈東急歌舞伎町タワー〉など。JIA新人賞(2014年)、山梨県建築文化賞、東京建築賞優秀賞(2018年)、照明デザイン賞最優秀賞(2021年)、WAF Highly Commended、IFデザイン賞(2022年)など。現在、2025年大阪・関西万博で2つのパビリオン、パナソニック『ノモの国』とウーマンズパビリオン、TOKYO TORCH Torch Towerなどが進行中。

永山祐子建築設計ウェブサイト
http://www.yukonagayama.co.jp/

パナソニックグループパビリオン「ノモの国」全体外観(写真:パナソニックグループ)

リングで構成された軽やかな組積アーチ造

「ノモの国」は、α世代の子どもに向けたパビリオン。パビリオンのコンセプトについては以前にお伝えしたとおり、「解き放て。こころとからだとじぶんとせかい」というもの。

全体の形状と構造を検討した経緯を、永山氏は次のように語ります。

「子どもはまだかたちが決まっていなくて、成長に合わせて変容していく存在です。このパビリオンは、これから変化していく途中のようなかたちがいいのではないか、と考えていきました。」

永山氏によるファーストスケッチ。「最初にどんなものがよいのか、子どもの画のように描くことからはじめた」と永山氏は振り返る(画像提供:永山祐子建築設計)

建物は、シャボン玉が寄り集まったような外観をしています。

「細胞のようなモチーフが集まって全体のかたちをつくるような、新しい構造形式を考えました。」(永山氏)

ファサードの構造体は、スチールパイプをクネクネと曲げたリング状の立体モチーフを重ね合わせていくことで全体を構成するアーチ構造。自由な形状をもつ立体モチーフを約1,400個組み合わせながら積み重なることで、「循環」を表現します。そしてこの形状と構造に至るまでには試行錯誤を繰り返し、約3カ月を要したといいます。

ファサードの構成と構造のダイアグラム(画像提供:永山祐子建築設計)

「ねじったようなかたちの立体モチーフが4つ組み合わさったものが1ユニットになるのですが、それが上に積み重ねられると、組積造のようにアーチを形成していきます。

正面から見ると蝶々のようなかたちをしているので『バタフライ・モチーフ』と呼んでいるのですが、ねじって反転したようなかたちで上に載せる形式です。

構造解析をしながら、構造体として成り立つためにはパイプの径はどれくらい必要なのか、ジョイントはどのようにすればいいのかといったことを検討しました。また風が常に吹いてくる立地なので、風洞実験で風荷重などを確認し、形状と開口率を検証しながらかたちを決めていきました。」

モックアップでの検証と構造解析の様子(画像提供:永山祐子建築設計)

輪の形状やパイプ径は位置によって少しずつ異なる。アーチ状のファサード部は自立するが、展示空間の建築物に留めている。展示建築の外装はステンレス鏡面材の仕上げでファサードや空を映し出す

風で揺らめき変容する柔らかなファサード

オーガンジーの膜の説明をする永山氏

体験会の日も、海からの風を受けて立体モチーフにかけられた布がはためいていました。永山氏は、その仕掛けの意図を次のように語ります。

「特殊なオーガンジーの膜を取り付け、風を受けて有機的に全体がゆらゆらと常にかたちが変容し、生物のように見える姿を目指しました。風で揺らめいたときに表情がどんどん変わっていきますし、日の光の当たり方で色も変化します。今日は晴れて強い光が当たって鮮やかな赤に見えていますが、曇りの日は違う表情になります。

あとは、夜になると本当に綺麗です。ライティングすると、オーガンジーの本来もつ色とは異なる見え方になり、違った世界が見えてくる。両方を見ていただけたらいいなと思います。

そして子どもたちにはこのパビリオンに来て見える風景をワクワクしながら見てほしいし、中に入ったときの体験を楽しんでもらえればと思います。」

約750枚に及ぶオーガンジーの膜の作成は、ファブリックデザインを担当した安東陽子氏と協働。表面に金属のスパッタリングを施しており、表と裏で異なる色をしている

ファサードと展示がリンクした蝶のモチーフ

パビリオン内で4つのゾーンで繰り広げられる展示では、「蝶」が重要なモチーフとなっています。永山氏は、ファサードの構造体と展示内容をリンクさせることを提案したといいます。

「ノモの国」コンセプトムービー
https://channel.panasonic.com/jp/contents/39703

「『ひとと自然の営みが新たな関係性を築くことで、それぞれ360°の循環が作用しあい720°の循環を実現する』というアイデアがパビリオンにはあり、展示チームとは最初の段階から外と中の展示内容を合わせていこうと進めていました。パビリオンの制作はどうしても建築のほうが先に進みますが、蝶のイメージを展示チームと共有し、さらに物語として発展させていただきました。最終的に、外と中が融合したかたちになったのは、チームが一体となりつくっていった結果です。」

展示空間「ZONE2:ノモの森」(写真:パナソニックグループ)

展示空間「ZONE4:大空へ」(写真:パナソニックグループ)

パナソニック ホールディングスの万博推進担当参与をつとめる小川理子氏は記者会見で、開幕前までに子どもたちに体験してもらうテストランを何回か行うことを明らかにしました。

「大人が真剣に取り組んだことは、子どもたちにも感じてもらえるのではないか。どの展示にもキラッと光るものがあり、子どもたちがそれぞれの感性で受け止めてもらえたらと思います。」(小川氏)

永山氏も会見では、次のようにメッセージを残しました。

「最初のスケッチが、そのまま立ち上がったようなかたちをしています。建築では、技術面などさまざまな側面から、最初に描いた画がそのままできることは難しいものです。

今回のプロジェクトでも、設計で成り立たせていくこと、設営していくことはこれまでにやったことがなく、ハードルが高いものでした。このパビリオンを通して、子どもたちには自分が描いた画が本当に建築になる日が来るかもしれないし、何か考えたことは頑張ればできるかもしれないということを、展示を通しても建築を通しても伝えられたらと思います。」

「ノモの国」WEBサイト
https://the-land-of-nomo.panasonic/

2025年日本国際博覧会 パナソニックグループパビリオン「ノモの国」新築工事

建設地:大阪府大阪市此花区夢洲東1-2-1
施主:パナソニック ホールディングス株式会社
総合プロデューサー:株式会社電通/株式会社電通ライブ
設計監理:株式会社大林組 / 有限会社永山祐子建築設計 / 株式会社構造計画研究所 / オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ・ジャパン・リミテッド
施工:株式会社大林組
展示会社:株式会社乃村工藝社
運営会社:株式会社コングレ
構造:S造
敷地面積:3508.08m²
建築面積:1546.23m²
延床面積:1731.64m²

 

Interview & text: Jun Kato

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